“もろびとこぞりて”平和の君なる御子を迎え 救いの主とぞ誉め称えよ
――賛美歌112番
イントロダクション
■ はじめに
“もろびとこぞりて”は『クトゥルフ神話TPRG』のためのゲームシナリオです。19世紀イギリスを舞台とし、適正プレイヤー数は3人限定です。プレロールドキャラクターを使用します。
謎解きを目的としており、プレイヤーに発想力や創意工夫を要求します。シナリオクリアの難易度は非常に高く、PCが全滅する結末のほうが多いでしょう。
キーパリングが難しいシナリオではありませんが、キーパーはシナリオに登場するクリーチャー「イスの偉大なる種族」に関しての予備知識を持っているべきです。ヴィクトリア時代の知識もあったほうがよいですが必須ではありません。プレイヤーにクトゥルフ神話の知識を要求することはありません。
このシナリオではキャラクターとプレイヤーを区別することが重要になってくるため「探索者」という呼称を使いません。探索者キャラクターのことは常にPC(プレイヤー・キャラクター)と呼びます。
■ 概要
舞台は19世紀末イギリス。PCたちは知人に招待されて「時計館」と呼ばれる館に集まり、穏やかなクリスマスイヴの一日を過ごすことになります。しかし一夜明けてクリスマス当日の朝、PC全員の昨日1日分の記憶が完全に消えており、同時にPOWが2減少しているということが、プレイヤーに知らされます! 記憶を失ったPCは再びクリスマスイヴの一日を過ごし、次の朝にはやはり再び記憶とPOWを失って目覚めます。このままいけばPCたちは1週間もせずに全てのPOWを失って廃人と化してしまうでしょう。
実は現在、時計館の主人の精神はイスの偉大なる種族(以下‘イシアン’とも呼びます)に乗っ取られています。しかも館にはもうひとり別のイシアンがいるのですが、2人ともひどい重症を負っており、体内に機械を埋め込んでかろうじて命をつないでいる状態です。彼らは生き延びるために精神を別の人間に転移させることを計画しており、PCはその犠牲者として選ばれたのです。PCたちの記憶と精神力はイシアンの装置によって毎夜少しずつ奪われ、毎日クリスマスイヴを繰り返しながら館につなぎとめられます。そしてPOWがゼロになり精神が空白になったところでイシアンの精神が転移してくる計画なのです。
原因となっている機械は3つあり、全てを破壊しなければ精神吸収は止められませんが、どれも巧妙にカモフラージュされています。この機械を探し出して破壊すること、あるいはイスの偉大なる種族の正体を暴いて倒すことがPCの目的になりますが、毎日記憶を消されることが最大の障害になります。PCは己の精神を守るため、5日のうちにこの怪異の原因を突き止め破壊しなければなりません――危機であるという事実すら気づかぬままに!
■ シナリオの背景
時計館の主人スペンサー卿は裕福な貴族であり貿易商でもありますが、それ以上に時計のコレクターとして有名です。その名のとおり時計館は大小新旧無数の時計で埋め尽くされており、時計修理のための工房までもが設けられています。ですが数年前からスペンサー卿は様子がおかしくなり、それまでの人当たりの良さをすっかり失い、友人との付き合いを避けるようになりました。時計館を離れ、海外に出かけて何週間も音信普通になったりと、すっかり生活も変わってしまったのです。
スペンサー卿の変貌は「イスの偉大なる種族(イシアン)」によって精神交換を受けた結果です。イシアンの情報収集は5年間続きましたが、今年に入って役目を終えたイシアンは帰還を決意しました。そこでもうひとり別のイシアンが呼ばれ、精神交換機の作製を手伝い、また使用後の機械を回収することになりました。彼らは時計館に拠点を定めて精神交換機の作製にかかります。部品を集めるのも一苦労でしたが、時計コレクターとしての人脈や時計館の工房を活用して、なんとか精神交換機は完成しました。
しかし問題は最終試験の最中に起こりました――精神交換機が暴走して大爆発を起こしたのです。
イシアン2人の肉体は致命傷を受けましたが、彼らは手近な機械部品を使って自らを処置し、かろうじて死を免れます。彼らはその肉体の余命を約2週間と予測しました。
最初に試したのは精神交換機を修理することでした。たとえ精神交換はできなくても、精神交換機の一部である時間通信機能だけでも回復できれば仲間に救援を求めることができます。しかし結果は、重要部品が欠損しているために時間遡行/通信機能は修理不能だと判明しただけでした。
精神交換の機能はなんとか動くようでしたが、「任意の対象に焦点を合わせて精神を抜き取る」機能は破損していました。総合すると、「時間を越えて」「対象の精神を抜き取る」ことはできないのですがそれ以外の機能は正常ということで、つまり、もしも「精神のない肉体」というものが存在すれば、精神投影を行ってその肉体を乗っ取ることはできることになります。
ここで2人のイシアンの意見が分かれました。新たに人間の肉体を奪い取って生き延びるか、このまま潔く諦めて死を待つか。もとより死を回避するために他人の肉体を奪うのは偉大なる種族における重罪です。もうひとりのイシアンはこのまま諦めることを主張しましたが、スペンサー卿(の身体の中にいるイシアン)が強固に精神交換を主張して、意見を押し切りました。となれば早急に「精神のない肉体」をふたつ作り出さねばなりません。
対象のPOWすべてを一度に全部奪い取る機械が作れれば話は簡単だったのですが、そんな強力な機械を作るには時間も部品も足りず、ようやく完成させたものには、24時間で2点のPOWを吸収する能力しかありませんでした。そこでイシアンは破壊を免れていた精神空白装置に改良を施し、ちょうど24時間分の記憶だけを消去するように調整しました。この2つの機械を併用すれば、対象の人間は何も気づかないままにPOWを奪われ、1週間もすれば精神のない抜け殻と化すでしょう。
機械製作に備えて犠牲者の選定も進められていました。スペンサー卿の知人に手紙を書き、クリスマスを一緒に過ごしたいという名目で館に招待します。
装置の完成は12月23日、精神交換機の爆発から1週間が過ぎた日のことでした。平均的な人間の精神を吸収し切るにはおよそ5〜6日。イシアンの肉体の命が尽きるのが先か、対象の精神を奪い尽くすのが先か。あるいは人間がイシアンの陰謀を打ち砕くのか。こうして偉大なる種族と人間との、生死をかけた知恵比べが開始されたのです。
第一部 ゲーム世界
「諸人こぞりて」
諸人こぞりて迎えまつれ 久しく待ちにし主は来ませり第一部ではゲーム世界、即ちPC・NPCと舞台の解説を行います。決まった道筋がなく、PCとNPCの行動次第で展開が様々に変化するタイプのシナリオであるため、各NPCにはかなりの情報量が用意されています。キーパーはNPCの性格や動機をしっかり把握してください。
◆
第1章 プレイヤー・キャラクター
最適プレイヤー数は3人であり、設定済みの探索者キャラクターを3人用意しました。PCは完全に作成済みであり、個別のハンドアウトも用意されています。キーパーはセッション開始前に3人分のキャラクターシートを用意して記入しておくべきです。
プレイヤーが2人の場合はクリア難易度が上がりますが、プレイ不可能ではありません。、プレイヤーに選ばれなかった残り1PCは使用しない(時計館に来なかったことにする)のがよいでしょう。キーパーに負担が大きくなりますから4人以上のプレイヤーが参加することはお勧めしません。
イシアンは2人ですから、3人の客を呼んだとなると1人分多いわけですが、これは招待を断られた場合に備えたのと、いざと言う時のための予備ボディとしてです。
サー・ラルフ・ノックス Sir Ralph Knox
STR13 DEX14 INT16 CON14
APP14 POW11 SIZ15 EDU18
耐久力15 正気度ポイント55
ダメージ・ボーナス:+1D4
技能:応急手当70%、回避44%、隠す50%、機械修理35%、聞き耳60%、
経理50%、乗馬50%、信用70%、説得65%、図書館70%、
ほかの言語/フランス語41%、目星70%、歴史30%、拳銃35%、
こぶし80%22歳。貴族の跡取り。スペンサー卿の娘アネットの婚約者。
ノックス子爵家はヨークシャーの裕福な地主で、ラルフはその長男です。オクスフォードを卒業し実家に戻ってきたばかりで、これから領地経営の勉強を始めようというところです。両親は健在で弟妹も多くいます。
スポーツも勉強も得意で非の打ち所のない好青年で、苦労を知らないために自信家です。スペンサー卿と話をして恥をかかない程度には、と思って時計やアンティークのコレクションの真似事をしはじめています。サーをつけて呼ばれるのは堅苦しいと嫌っています。
クラレンドン家とは領地が近いため親交があり、アネット・クラレンドンは10年前に親同士が取り決めた婚約者です。とはいえアネットのことは本心から好きですし、アネットのほうもラルフを憎からず思っています(とラルフは信じていますし、事実そのとおりです)。5年前からスペンサー卿がイギリスを離れて旅行することが多くなったこと、そしてその旅行には常にアネットが同行していたことは知っています。
最近になってスペンサー卿が時計館に戻ってきたと聞き、そろそろアネットとの式を本決まりにさせるためにクリスマスに押しかけようかと考えていたところ、卿のほうからクリスマスに招待したいという手紙が送られてきました。もちろん依存あるはずもなく、すぐ返事を書き、ひさしぶりにアネットに会えるという期待に胸を膨らませて従僕に荷造りを命じました。
なおラルフは10余年前ですが何度か時計館に行ったことがあり執事たちとも面識があります。執事の息子ロジャーは歳も同じでいい遊び友達でした。
所有技能は交渉・調査・戦闘とまんべんなく優秀ですが、どちらかといえば器用貧乏タイプです。立ち位置的に最もプレイしやすいPCですが、あえて言うなら恋愛のロールプレイに抵抗のないプレイヤーに向いているでしょう。
アーウィン・エッジウッド Erwin Edgewood
STR9 DEX16 INT16 CON10
APP9 POW11 SIZ12 EDU22
耐久力11 正気度ポイント55
ダメージ・ボーナス:なし
技能:オカルト55%、隠す60%、機械修理85%、聞き耳50%、
重機械操作31%、信用50%、製作(時計)95%、電気修理60%、
天文学21%、図書館65%、ほかの言語/ドイツ語31%、
ほかの言語/フランス語31%、ほかの言語/ラテン語21%、
目星75%、歴史40%36歳。会社役員にして時計工。
ウェールズの田舎郷士(ジェントリー)の三男で、機関車から小型機械までの様々なエンジンを手がける会社エッジウッド&グロス社の社長を父親に持ち、自身も役員兼技術者です。若いころから機械いじりが好きで、特に時計に関しては職人以上の技量を持っています。今では親兄弟も経営を手伝わせることは諦め、時計工房を与えて自由にさせています。事実、エッジウッドの時計は一族の名を上げる一因になっており、咎め立てる者はいません。
他に仕事はせず時計製作に没頭しており、一種のディレッタントです。ですが、ひとつ作るのに数ヶ月から数年かかるその精巧緻密なムーブメント(内部機械)の価値は広く認められていて、売りに出せば高値で取引されます。時計に限らず機械全般に通じていますし、最新技術である電気にも興味があります。読書が好きなので無駄な雑学がありますが芸術や世情には疎く、見た目もぱっとしないので枯れた男という印象を与えます。妻子はありません。
スペンサー卿はお得意様、よき理解者、そして友人です。といってもそれは何年も前のことで、卿ともその娘アネットとも5年以上会っていません。何か病気療養のために海外に出かけているとは聞いていましたが、どうも卿は病気をしてから友人知人を避けるようになってしまったようです。また会いたいとは思いつつ、こちらから押しかける気力もなくて疎遠になっていました。
1週間前、5年ぶりにスペンサー卿から手紙が来て、卿の館である時計館でクリスマスを過ごさないかと誘われました。家族と過ごしてもどうせ退屈な集まりですし、ひさしぶりに理解ある友人と話ができるならばそれに勝る喜びはありません。まして時計館はイギリス有数の時計コレクションで知られる館です。さっそく応諾の手紙を書きました。そして12月23日夕刻、アーウィン・エッジウッドは汽車から降り立ち田舎町のホームに足をつけることになります。
時計修理や機械製作に使う道具一式は持ち歩いており、この道具で鍵開けをすることもできます。キーパーは鍵の種類に応じて〈機械修理〉に修正を与えてください。〈鍵開け〉ではないので金庫を開けるのは困難ですが、簡単な錠前ならば修正はいりません。
交渉技能は皆無、調査能力はそれなり、ですが機械に関しては天才です。〈機械修理〉がシナリオの要所で必要とされるので、最重要のPCです。プレイヤーが2人しかいない時には、できるだけエッジウッドを使用するようにアドバイスしてください。
ラザラス・メリウェザー Lazarus Meriwether
STR11 DEX15 INT15 CON11
APP13 POW12 SIZ16 EDU21
耐久力14 正気度ポイント60
ダメージ・ボーナス:なし
技能:言いくるめ70%、聞き耳90%、芸術/ヴァイオリン95%、
芸術/ピアノ65%、芸術/歌唱60%、忍び歩き45%、信用45%、
心理学70%、説得80%、ほかの言語/ドイツ語31%、歴史30%29歳。ヴァイオリン奏者。
貧乏男爵の三男です。高い教育は受けさせてもらえましたがメリウェザー家は裕福ではなく、幸いにして音楽の才能があったので自活の道として音楽家を選びました。現在は、ロンドンでも一二と言われるコヴェント・ガーデン劇場の楽団の第一ヴァイオリンを務めています。
大柄でにこやかな顔をしており、会話が得手で遊び好きです。親からは結婚しろとうるさく言われていますがその気はありません。楽器だけでなく歌も得意です。趣味でアンティーク収集をしており、特に古い時計には目がありません。
3年前、ドイツの劇場のパーティの席でスペンサー卿に紹介されました。スペンサー卿の時計コレクションとそれを納めた時計館はこの道では有名で、メリウェザーは卿と親しくなろうと試みましたが、卿はとても無愛想な男で「イギリスに帰ったら時計館に招待しよう」と約束させるのが精一杯でした(この時スペンサー卿は、某音楽家と交渉するために仕方なくパーティに来ていたシュタウフェンベルクを探していました。ついでにメリウェザーはここでアネットにも会い、シュタウフェンベルクの顔と名前も知ることになります)。その後イギリスに帰ってから何度も手紙を出してみましたが、御前は帰国しておりませんという執事の手紙が返ってくるばかりでした。
ところが1週間前スペンサー卿のほうから手紙が来て、しばらくの間だがイギリスに戻ってきたのでクリスマスでよければ時計館に来ないか、と招待されました。友人と過ごす予定はあったのですがやっと巡ってきた時計館を見るチャンスです。一も二もなく応諾して返事を書くと折り返して切符が送られてきました。こうしてラザラス・メリウェザーは時計館行きの汽車に乗り込むことになったのです。
絶対音感と鋭敏な聴覚を持っており、〈聞き耳〉ロールの際に自発的に〈芸術/ヴァイオリン〉とコンビネーション・ロールすることによって雑音をカットできます。具体的には館の時計音による〈聞き耳〉ペナルティを打ち消せます。
交渉系技能と〈聞き耳〉に技能が集中しています。自発的に技能の使い方を考えなければならない場面が多く、探索慣れしたプレイヤーに向いたPCです。
第2章 ノンプレイヤー・キャラクター
ノンプレイヤー・キャラクター(NPC)は上から重要度の順番に並べられています。能力値や技能は最低限のものしか記されていません。
ロード・スペンサー・クラレンドン Lord Spencer Clarendon
STR13 DEX7(射撃・軽作業は17)
INT27 CON7 POW17 SIZ17
耐久力4
技能:機械系の技能すべて99%、学術系の技能すべて99%
武器:電撃銃 45% ダメージ1D10
正気度喪失:体内の機械が露出したら0/1D4
技能値は便宜上99%としましたが、実際には人間の基準を遥かに超える技術力を持っています。
負傷しているので肉体能力値が変動しています。
執務室の机の引き出しに電撃銃を入れていますが、急造の簡易品です。エネルギーパックは5発分、射程10m、1度に1発のエネルギーしか撃てません。しかもスペンサー卿はテストをしていないので気づいていませんが故障しており、2発目までは正常に発射できますが、3発目を撃つと爆発して半径1mに1D10ダメージを与えます。人間がこの電撃銃を見たら、〈電気修理〉に成功すれば、射撃武器らしいことと引き金が理解できます。43歳。イスの偉大なる種族に精神交換された貴族。時計館の主人。
ロードと呼ばれますが跡取りではなく三男で、かなりの財産と貿易会社は自分自身で築き上げたものです。友人知人からは「スペンサー卿」、使用人からは「御前」と呼ばれます。身長6フィートを超える巨漢で、肌は日に焼けています。ですが物腰は常に紳士的かつ理知的で、言うなれば学生時代スポーツマンだった壮年実業家、といった印象です(実際、そのとおりの人物なのですが)。
本来の精神のスペンサー卿だった頃は、活動的な社交家でした。会社経営も順調で、趣味はイギリス有数といわれるほどの時計コレクションです。もともとは時計館も含めて祖父のコレクションだったのですが、これを受け継いだスペンサー卿は財産にものをいわせて様々な時計を収集し、今や時計館は博物館といっていいほど時計に埋め尽くされています。また卿は芸術家の後援をよくすることでも知られていました。実際にはスペンサー卿はあまり芸術を解するほうではないのですが、それでも各種芸術に出し惜しみはしない気前の良い男です。妻と息子には先立たれており、残った一人娘のアネットを溺愛しています。
とはいえスペンサー卿は5年前にイスの偉大なる種族に精神交換されてしまいました。協力者のおかげで記憶喪失はそれほど騒ぎにならずに病院に短期入院するだけで済みました。退院した卿は友人を遠ざけてこの世界の情報収集に取り掛かりましたが、ここで娘アネットが問題になりました。アネットは人格が変わった父親を恐れながらも離れようとせず、どこまでも親身に世話をしようとしてきたのです。引き離すのは簡単でしたが、卿はむしろ娘を雑用・交渉係として利用しようと考えました。アネットは父に献身的でしかも高い教養を持っており、利用価値は十分でした。卿は娘を連れて世界各地に旅行しこの世界の知識を収集しました。
ですが3年前に彼らはエジプト滞在中にネフレン=カの信者とトラブルを起こしてしまい、その結果アネットは巻き添えを受けて心臓を短剣で貫かれてしまいます。見殺しにしてもよかったのですがその利用価値を考慮し、卿は手持ちの機械で人工心臓を作製してアネットに埋め込みます。同時に心理的ダメージを軽減するために精神空白装置で記憶を消した上に強力な催眠暗示をかけ、今後都合の悪いこと(心臓のことやクトゥルフ神話知識)は一切記憶しないようにさせました。
それ以降の年月は何事もなく過ぎ、帰還の時期がやってきました。スペンサー卿とアネットが帰国したのは3週間前です。もうひとりのイシアンであるシュタウフェンベルクを内密にヨーロッパから呼び寄せ、時計館の工房にこもって精神交換機を作製にかかります。予想外の爆発事故が起きたのはその時だったのです。
現在のスペンサー卿の精神は比較的若く積極的なイシアンで、偉大なる種族の基準からしても知性が高く、また冷酷で自己中心的なところがあります。偉大なる種族である自分がこんなところ死ぬなどということに納得できず、追い詰められて焦っており、生き延びるためならば何でもするつもりです。精神交換前の外交的な性格を演じようとはしていますが、冷酷な本性が態度に出たり、どこか異常な目つきや挙動が見え隠れして普通の人間を不安にさせることもあります。
5年前までのスペンサー卿は陽気で気前の良い人物でしたが知的でもなく芸術に造詣もありませんでした。しかし現在はかなりの芸術知識を持ち、それ以外にも社会や科学について非常に詳しくどんな問題にでも明快に返答できますが、用心しているのであまり知識をひけらかすことはありません。会話がまずいほうに流れそうなら体調不良のせいにして打ち切ります。卿の精神構造は人間とは異なるので〈心理学〉を含めて交渉系技能は一切通用しません。
5年間の旅行について問われると、療養と観光を兼ねたものだと答えます。長年の仕事のしすぎで神経が疲労したので憧れていた世界旅行をすることにしたのだ、というところです。それ以上のことを聞き出すことはできません。シュタウフェンベルクの名を出されれば友人だと認めます。車椅子に乗っている理由を問われれば海外でかかった病気が治りきっていないための体調不良と説明します。歩けることは否定しません。
爆発のダメージは胴体に集中しており四肢や顔はほぼ無傷です。偽装しているので見ただけでは分かりませんが、内臓器官は大部分が機械(微細な歯車や管をつなぎ合わせたもの)になっています。服をはぎとれば機械部分がむき出しになります。腕力は十分残っており、歩いたり階段を上下したりもできますが、それ以上の肉体活動は困難です。一日中執事に車椅子を押させています。卿の負傷はシュタウフェンベルクよりひどく、余命はシナリオ開始時から7日間しか残されていません。
近くにいる人間は卿の体から細かい機械音(ゼンマイやネジの回転音)が聞こえてくることに気づくかもしれません。握手よりもさらに卿に接近した場合、あるいは「卿の体に耳をすませる」と宣言した場合は〈聞き耳〉−40%ロール(周囲の時計音の修正は別に加えてください)に成功すれば機械音を聞き取れます。もちろん卿は不用意に人を近づけることはせず、しかも時計を複数持ち歩いてカモフラージュしています。
第三部でも述べますがスペンサー卿は実に手ごわい相手です。肉体的には無力ですがその知力と技術はPCを遥かに凌駕しています。それに加えて記憶というアドバンテージもあり、尋常な手段では卿に勝つどころか対等に勝負することさえかなわないでしょう。しかしキーパーは手を抜かず、全力でスペンサー卿を演じてプレイヤーに対峙して下さい。
なおイシアンとアネットの体内には人工臓器が埋め込まれていますが、これは非常に小さな歯車・管・レンズなどで作られており、いわばゴシック調の人形をイメージしています。もとよりヴィクトリア時代の産物ですから生物的あるいは未来的な表現は避け、破壊された場合などはアンティークな機械人形のように描写してください。
アネット・クラレンドン Annette Clarendon
STR12 DEX9 INT17 CON13
APP15 POW14 SIZ11 EDU14
耐久力12 正気度ポイント30
技能:聞き耳70%、心理学50%、図書館70%、目星50%
記憶を消されて軽減されてはいますが、旅の経験や体内の機械のために正気度がかなり減っています。20歳。スペンサー卿の一人娘。イシアンの操り人形。
小柄ですが活動的で快活、見た目は貴族の子女ですが性格はどちらかというとおてんばです。思い込みが激しく、こうと決めると絶対に意志を曲げないところがあります。外国語に通じ、また野外活動にも慣れています。
5年前に父スペンサー卿が倒れ、それ以来すっかり性格が変わってしまいました。体の動かし方や英語まで忘れ、あらゆる記憶がなくなったばかりか、異常としか言いようのない目つきや動きをするようになったのです。直感的に尋常な事態でないことは分かりましたがそれでもアネットは父を信じ、元に戻るまでは父を支えることに決めたのです。それ以後の数年間父は秘書代わりに自分を同行し、あれほど熱心だった時計コレクションも忘れて世界を旅して回りました。婚約者と離れることは寂しく、変わってしまった父と謎めいた旅に不安はありましたが、それでも父を支えると決めたのですから貫き通すまでです。
現在ひさしぶりに時計館に戻ってきた父は腰をすえ、どういうわけか工房にこもって機械部品を注文し始め、あげくは友人に手紙を出してクリスマスを一緒に過ごしたいとさえ言い出しました。今の卿からは想像できない心境の変化ですが、アネットは驚き戸惑いながらも喜び、クリスマスの準備に取り掛かりました。自分ももう20歳、何年も待たせてきたラルフに申し訳なく思う気持ちで一杯です。でも今年はきっと楽しいクリスマスになるでしょう……。
5年間の旅行について問われると、とても楽しかったと心から答えます。交通機関や通訳の手配、人と会う場合のセッティングなどが彼女の仕事で、要するに秘書役でした。手が空いたときには筆写や行動記録もやらされていました。卿が何をしていたか正確には知らないのですが、療養でも観光でもなく、歴史や科学などの勉強や研究をしていたと思っています(それは事実ですが、もちろん卿がクトゥルフ神話の深淵にまで手を伸ばしていたことまでは知りません)。
機械心臓を埋め込んだ際に、すでにスペンサー卿はアネットの命を使い捨てるつもりでいましたので、当面の精神防衛のためだけに強力すぎるほどの催眠暗示をかけました。卿の命令ならばなんでも聞き、自分の記憶まで自由に消去してしまう暗示です。よってアネットは心臓のこともクトゥルフ神話知識もシュタウフェンベルクのことも知りませんし、これらに関しては理解も記憶もできません。証拠(胸の傷跡など)を突きつけられたら矛盾に耐え切れずに錯乱し、意識を失います。卿の命令ならば自殺も躊躇しません。無意識にですが、前の大きく開いた服は避けるなどして胸が見られないように注意しています。
命令遂行中のアネットは夢遊病状態でぼんやりとしており、簡単な受け答えもできますが、命令の内容や卿の秘密を漏らすことはありません。人に見つかったならばごまかして部屋に戻り、時間を置いてからまた命令を遂行しようとします。完全に止めるには気絶させるか拘束するかありません。PCに催眠を解くことはできません(数年単位の時間と〈精神分析〉技能が必要です)。
爆発事故のためにうやむやにされていますが、本来アネットはスペンサー卿の精神が帰還する直前に殺害されることになっていました。アネットの心臓はイシアン製の人工心臓ですから、イシアンの定期的なメンテナンスがなければいずれ――長くても2年で――停止する運命です。この心臓を残していくわけにはいかないので帰還前に(病死か事故死に見せかけ)殺して抜き取っていく計画だったのですが、今やイシアン自身が危機なのでアネットのことは放置されています。
また最大の問題として、アネットの体内には精神吸収装置が埋め込まれています。装置については後述しますが、3つの装置の隠し場所のひとつがアネットの体内であり、これに気づくかどうかがシナリオのポイントになります。服を脱がせてみれば胸の中央にごく新しい傷跡(手術跡)が縦に走っているのが分かります。直接触ったり耳を当ててみれば、明らかに異常な機械音と振動が感じられます(この際に0/1の正気度を失います)。なお心臓だけなら(過去にスペンサー卿の改良を受けたため)ほとんど音を発しません。
アネットは父が以前の記憶を取り戻しかけているのではないかと期待し、さらにはしばらく会えなかった婚約者ラルフに会えるのでむしろ浮かれています。父が具合を悪くして車椅子(祖父が使っていたもの)に乗っていることは不安ですが、深刻なものとは思っていません。正気のアネットはまったく無害ですが卿の一言でいつでも操られて言いなりの人形になります。アネットはイシアンの武器であり人質であり、それ以上に装置の隠し場所です。存在自体が伏線となっていますので、キーパーはできるだけアネットの出番を多くしてプレイヤーに印象付けてください。またアネットはそれまで館の右翼に寝室と私室を持っていたのですが、3日前になんとなく左翼に寝室を移しました(スペンサー卿の暗示によるもので、精神吸収装置の効果範囲を考えたからです)。
ラルフとアネットの婚前交渉はまだありません。キーパーはラルフとアネットの二人きりのシーンを最低1回は用意し、抱き合うような状況を演出してください。そこから先に進めるかどうかはラルフ次第です。もしラルフがアネットに(演技か本気かはともかく)肉体関係を迫ってきたら、アネットは一応抵抗しますが結局は許してしまいます(もちろんラブシーンを演じる必要はまったくなく、胸の傷跡の伏線に過ぎません)。
ウルリッヒ・シュタウフェンベルク Ulrich Stauffenberg
STR11 DEX8(射撃・軽作業は18)
INT24 CON8 POW15 SIZ14
耐久力6
技能:機械系の技能すべて99%、学術系の技能すべて99%
武器:38口径リボルバー 50% ダメージ1D8
正気度喪失:体内の機械が見えたら0/1D4
負傷しているので肉体能力値が変動しています。
リボルバーを持っていますが人を傷つけることは滅多にありません。威嚇用あるいは自決用と思ってください。39歳。イスの偉大なる種族に精神交換されたドイツ人音楽家。
スペンサー卿の帰還の手伝い(精神交換機の作製と使用後の回収)に来たイシアンですが、爆発に巻き込まれて同じく重傷を負っています。負傷はスペンサー卿よりは軽く、余命はシナリオ開始時から11日程です。時計塔の地下工房に潜んでおり姿を見せません。
背が高く非常な痩身で、細長い針金のような印象を与えます。負傷は右半身全体に及び、右目も欠損しています。内臓器官も損傷していて体内には急造の人工臓器が詰め込まれています。顔面を含めて全身に無造作に包帯を巻いていますが、その下からは火傷の皮膚や金属部品があちこち覗いています。彼をちらっと見るくらいならば問題ありませんが、包帯の下の機械まで見えてしまったならば0/1D4の正気度を失います。〈心理学〉を含めて交渉系技能は一切通用しません。
かつてはドイツの伯爵家の四男で、音楽家・ディレッタントとして名高い人物でした。ピアノとヴィオラの演奏では天才とまで言われていましたが、6年前に(精神転移を受けて)記憶喪失になり病院に入って以来音楽活動からすっかり身を引いてしまいました。スペンサー卿より先にヴィクトリア時代に到着しており、卿の精神交換の隠蔽を手伝ったのもシュタウフェンベルクです。本来なら卿より先に帰還していていいのですが、音楽に興味を持ち、演奏技術を習得するためにこの世界の滞在を伸ばしていました。
性格は穏やかで極度に理知的。利己的な欲望というものをほとんど持っていません。種族や仲間を大切にし知識の収集を重んじる、いわばイスの偉大なる種族の見本のような人物です。戦闘あるいは無駄に生命を奪うことをよしとせず、極力傍観者であろうとします。精神吸収装置が精神破壊ではなく吸収を目的としているのは2人のイシアンの妥協点であるためです。スペンサー卿は手っ取り早く精神破壊で済ませようとしたのですが、吸収するだけならばまたいつか復活の可能性もあるとし、シュタウフェンベルクが吸収装置に変えさせたのです。
シナリオ開始時にはスペンサー卿と協力してPCの精神を吸収するために活動しています。日中に限らず夜間も常に時計塔地下の秘密工房にいて外へは出てきません。
工房では一日中機械製造や部品修理をしていて、PCが精神吸収装置を破壊しても彼がここで修理してしまいます。修理速度は「完全に破壊された精神吸収装置1つを6時間で元に戻せる」ペースです。つまり1日1つまでならばPCが寝ているうちに直せるわけです。
過去5年のうちに客として時計館を訪れたことが2回ありますが、今回は姿を隠していて、彼が時計館にいることはスペンサー卿しか知りません。食事は深夜の間に自分で取りにいくので、工房から出るのはこの時だけということになります。
シュタウフェンベルクは迷っています。スペンサー卿が計画を貫徹してPCの精神を奪うというならば止める気はありません。自分の命はそれほど惜しくありませんが、蓄えた知識を持ち帰りたい、あるいは今後も種族のために働きたいという欲求はあるので、卿が成功すれば自分もPCに精神転移をして命を長らえてもいいと思っています。
卿がPCによって殺されてしまい自分だけが残った場合、シュタウフェンベルクは敵にも味方にもなりえます。計画が全て看破されてしまい精神吸収装置も破壊され卿も殺された(あるいは自滅した)ならば、シュタウフェンベルクは潔く諦めます。PCの精神を納める水晶をPCに渡したり、あるいは素直に割って負けを認めるます。その上でイシアンのテクノロジーを人間に渡さないために時計塔に火をかけて滅びることを選びます。この際プレイヤーが突き止めていない部分が残っていたらシュタウフェンベルクの口から解説してもいいでしょう。たとえばアネットの心臓と余命についてなどです。
ですが卿が死んだとしても、PCが事件の真相に至っていないならばシュタウフェンベルクは計画を引き継ごうとします――復讐ではなく、自分の意思を曲げてでも仲間の遺志を継ぐために。卿がいなくても装置さえ健在ならば問題ありません。深夜になったら時計塔から出て、自らの手でPCに記憶空白装置を使うだけのことです。黒幕は交代し、何も問題はなく計画は続行されます。つまり単にスペンサー卿を殺すだけではシナリオは解決しないということです。
ロジャー・ジェイコブス Roger Jacobs
STR16 DEX13 INT12 CON13
APP12 POW11 SIZ16 EDU14
耐久力15 正気度ポイント55
技能:経理35%、組みつき65%、こぶし75%21歳。スペンサー卿の執事代理。執事ラスルトン・ジェイコブスの息子。
がっしりとした体格で態度も機敏、性格も明朗快活で、誰とでも気安くつきあえる青年です。勉学よりも体を動かすことを好み、根は大雑把で単純素朴な性格です。
将来は父親の跡を継いで執事になることが決まっており、今の仕事にも待遇にも満足しています。父と区別するために「ロジャー」と呼ばれます。
父は老齢ですしスペンサー卿に付き添わねばならないため、ロジャーが執事代理として時計館を切り盛りしようとしています。執事としてはまだまだ未熟ですがそれでも一日中忙しく動き回っています。館で何かトラブルがあればたいていロジャーが真っ先に駆けつけてきます。
子供の頃からアネット・クラレンドンに憧れを抱いており、彼女の婚約者ラルフには健全なライバル心を抱いています。自分との身分違いも、いずれラルフとアネットが結婚することも理解していますが、それでもロジャーはアネットに献身的です。スペンサー卿かアネットに命令されれば、重犯罪だったり人を傷つけたりしないことならば何でも実行します(たとえば殺人や放火は拒否しますが、PCを殴ったり拘束・監禁したりくらいはできます)。しかしもしPCがアネットに危害を加えているように見えたならば容赦はしません。
ロジャーはスペンサー卿の手駒で、力技担当です。PCが暴力に訴えてスペンサー卿や屋敷に害を及ぼそうとしたらロジャーを使って制止してください。もちろんそれは単純な忠誠心からの行いであり、彼がイシアンの陰謀に感づいているわけではありません。卿が本物でないとPCが証明すれば味方になりえますが、常に最優先はアネットの身の安全です。
3年前までパブリック・スクールの寄宿舎に入っていた(執事には教養も大事です)ためスペンサー卿の変貌についてはほとんど知りません。アネットの心臓のことも知らずシュタウフェンベルクに会ったこともありません。確かに昔とは卿の性格が変わってしまったとは思っていますが別に気にしていません。子供の頃の話ですがラルフは遊び友達でした。今ではもう貴族と使用人の関係ですが、ラルフがそうと望めば今でも友達として気安く話せるでしょう。
ラルストン・ジェイコブス Ralston Jacobs
DEX7 INT14 POW10
耐久力9 正気度ポイント50
技能:経理80%、忍び歩き70%55歳。スペンサー卿の執事。執事代理ロジャーの父。
父親の代からクラレンドン家に仕えている生え抜きの執事で、年老いてはいますが家政には有能です。態度は生真面目で厳しく、無駄口は叩きません。威厳や品格を重んじますが主人に意見するようなことはしません。時計館で「ジェイコブス」と呼んだ場合はラルストンのほうだけを指します。妻はすでに死別しています。
老体で力もそうありませんがスペンサー卿の車椅子を押すのはジェイコブスの役目です。そのため寝るとき以外は常に卿に付き添っており、仕事も卿の執務室の隣室で行います。ずっと車椅子を押しているだけあって卿の体から妙な振動や機械音を感じていますが、口には出しません。
5年前にスペンサー卿が変貌してしまってからずっと時計館を守るのはジェイコブスの役目でした。シュタウフェンベルクが2度ほど卿に会いに来たことを覚えていますが、名前と顔とドイツの音楽家であることしか知りません。卿は年に2〜3週間程度(月にして2〜3日)しか時計館におらず、ほとんどはロンドンや外国に行っていました。
卿の人格が変貌してしまったことは誰よりもよく分かっていますし、今の卿を恐れて不安になってもいますが、なお執事としての忠誠に変わりはなく、他人に不安を漏らすこともありません。ジェイコブスを納得させるだけの理由をつけられれば卿の変貌ぶりやそれ以後のことについて詳しく教えてくれます。例えば、3週間前に館に戻ってきたスペンサー卿があちこちに手紙を書いて機械部品を取り寄せていたこと、送られてきた部品は卿自身が工房に持っていって組み立てていたらしいこと、などです。イシアンの陰謀に関してはまったく知りません。
スペンサー卿のすることには口出ししませんが、アネットのおてんばぶりや息子ロジャーの粗雑さを目にすると厳しく叱ります。ロジャーがアネットに寄せる思いには気づいていますが黙っています。ロジャーが立派な執事になり、相応の嫁を見つけて身を固めることだけがジェイコブスの夢です。
■ ウィルマ・マブリィ Wilma Mabry
39歳。時計館のメイド長。
大柄で愛想良く、メイドたちに慕われているメイド長です。時計館に勤めて20年になるので卿の変貌や館の様子についてはジェイコブスの次に詳しいです。口が軽いわけではありませんが、ジェイコブスよりは楽に情報を引き出せる相手です。それ以外は普通のおばさんで隠し事などはありません。食材や燃料の残量についてはもっと下のメイドや料理人のほうが詳しいでしょう。
DEX12 INT13 POW11
耐久力12 正気度ポイント55
技能:応急手当65%
■ ジェフ・インガルス Jef Ingalls
50歳。時計職人。
時計館おかかえの時計職人です。時計職人は他に2人いてジェフがリーダーですが、ジェフ以外はクリスマス休暇をもらっていて館にいません(精神交換機作製を邪魔されたくないスペンサー卿が休暇を出したのです)。
時計工房の管理責任者でもありますが、今は館内での仕事のほうが多く、工房にはほとんどいません。電池を使った実験(後述)のことを尋ねればスペンサー卿がやっていたものだと答えます。時計のことならなんでも知っていますがイシアンや秘密工房のことは知りません。エッジウッドのことは名時計工として尊敬しています。
DEX14 INT13 POW13
耐久力12 正気度ポイント65
技能:機械修理75%、芸術/時計70%
■ その他の使用人 Servants
ここ数年は時計館にほとんど主人がおらず客が来ることも少なかったので、館の規模のわりには使用人は少なくなっています。上記のNPCに加えて従僕2名、女中9名(料理人含む)、園丁2名、御者1名と馬丁夫婦の計16名が使用人室で寝ています。さらに時計職人3名(ジェフ含む)も住んでいて時計のメンテナンスや時刻あわせを行っています(当時の時計ですから一日に何分もずれますし定期的にゼンマイも巻かなければなりませんから手がかかるのです)。よってイシアンとPCを除く館住人は、アネットを含めて21名ということになります。
POWは8〜13の間でキーパーが適時決めてください。POW8〜9なら3日目深夜に、POW10〜11なら4日目深夜にはPOWがゼロになって植物状態になることには注意してください。
使用人全員の名前は決定しませんが、例を挙げておきますのでプレイ中に必要になったら使ってください。女性:ジャネット、アン、ジュディ、ベラ。男性:ポール、ジョセフ、サム、シドニー。
第3章 シナリオの舞台
舞台はヨークシャー、時計館はマンスフィールドと呼ばれる田舎町の郊外に建てられています。館の周辺は丘陵地帯になっており、すべてクラレンドン家の領土なので人家はありません。マンスフィールドの町と駅は馬車で30分ほどの場所にありますが、PCが館に到着して以後は天候が吹雪になり、1時間かけても町まで戻れるか分からない状況になります。雪はシナリオが終了するまで降り続け、館を外界から隔離します。
時計館本館
もとは修道院だったものが60年ほど前にゴシック・リバイバル様式で全面改築されて今の荘園屋敷になりました。そのため高い天井や装飾を含めて外見は修道院時代のままです。時計館と呼ばれるようになったのも60年前からで、スペンサー卿の祖父が自分の時計(や絵画・彫刻などの)コレクションを納めるために改築させたのが起源です。館は本館と時計塔に分かれていて、館外には厩舎と庭師小屋があります。もとより狩猟用のカントリーハウスではないため館内に銃器はありませんし、猟犬も飼っていません。
その名のとおり呆れるほどに館中が時計で埋めつくされていて、その作動音だけでもかなりのものです。コレクションは収集者の趣味を反映して、ムーブメントよりも外見や由来、つまり美術的価値や歴史的価値が重視されたものです。アンティーク的な時計が多く、カレンダー機能のあるような時計は少数です。掛け時計、置き時計はもちろん巨大なからくり時計(時刻になると人形が動いたり音楽を鳴らしたりする時計。鳩時計もその一種)がいくつもあり、定時になると様々な時計の時報だけでひと騒ぎになります。外国の時計や変り種の時計もそこかしこに置かれていますが、特に異常あるいはオカルト的なものはありません。全体的に時計館は人が住む館というよりは美術館か博物館という印象です。
浴室や廊下を含めて至るところに時計があり、その作動音が〈聞き耳〉技能を阻害します。寝室や廊下では−10%、それ以外の部屋では−20%修正を受けます。時計塔内部や工房では−50%修正です。もちろんこれは別の修正とも重複します。
マップには何も指示のない部屋も多いですが空き部屋というわけではありません。1階の場合はほとんどがギャラリーになっていて時計が飾られています。2階左翼はすべて客用寝室です。2階右翼は家人用の寝室棟ですが、家人が少ないので半数の部屋はギャラリーになっています。PCが館に到着したら2F左翼から好きな部屋を選択させてください。
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■ 伝声管
時計館の特徴として、館内ほとんどすべてが伝声管で結ばれています。
伝声管は直径2インチの真鍮管で作られており、開口部にフタがついています。廊下・バストイレ・倉庫などを除いた主要な部屋に最低2本は設置されており、配管の拠点は執事執務室と召使い控え室になっています。呼び鈴の紐も同じような配置になっていますので、普通はまず呼び鈴を引いてから相手が伝声管のフタを開けるのを待ち、そして伝声管で用件を伝えることになっています。
これら伝声管は改築時に設置されたもので、館の壁には伝声管を通すための専用の穴が設けられています。執事執務室と召使い控え室以外にも、ホール・サロン・食堂・娯楽室などの大きな部屋同士は直接伝声管で結ばれています。伝声管は主人や客のほうから使用人に話しかけるために使われており、使用人のほうから伝声管を使うことは(よほど火急の用件でもなければ)ありません。呼び鈴が通じてなくても伝声管を叩くことで呼びかけることもできます。
向こう側のフタが開いていれば盗聴にも使えますが、伝声管はたいてい部屋の隅の壁に設置されているので、音源との距離に応じて修正をつけた〈聞き耳〉ロールが必要になります(普通の会話なら−20%程度)。
伝声管はPC同士で内密の会話をするのに適していますが、スペンサー卿の情報収集用としての意味合いが大です。特に当主執務室と秘密工房は直通していますが、これは本来当主執務室と工房を結んでいた配管をこっそり延長したものです。
■ ギャラリー
第二ホールの北にあるギャラリーの壁に大きな柱時計が設置されています。この時計が精神吸収装置Bの隠し場所です。この柱時計はからくり時計で、深夜12時から3時間おきに首切り役人と王女の人形が出てきて音楽にあわせて踊り、1日かけて芝居をします(最後は首を落として終幕です。王女のモチーフはマリー・アントワネットで、40年ほど前のフランス製時計です)。人形が出てくる舞台の奥に装置が隠されています。
★印が精神吸収装置の隠されている柱時計の場所です
■ 当主執務室
当主用机の一番上の引き出しの中に、時計館すべての鍵がまとめられた鍵束が入っています。むろんその引き出し自体にも錠がかかっており、その鍵はスペンサー卿が懐中時計につけています。〈機械修理〉で引き出しを開けるなら修正は−30%、1回の試行に5分かかります。ただし痕跡を残さないように開錠したいなら1回20分です。さらに別の引き出しの中には電撃銃が入っていますが、もちろん錠がかかっています。
この部屋の伝声管は当主用机のすぐ横に設置されています。伝声管は主要な部屋(ホールやサロン)の多くに繋がっていますが、ラベルなどは一切ついていないため、どの管がどの部屋に通じているのか部外者には分かりません。うち1本は秘密工房へ通じています。
■ 当主寝室
部屋を30分かけて捜索し〈目星〉に成功すれば、壁の絵の下の金庫を発見します(アネット、ロジャー、ジェイコブス、マブリィもこの金庫の場所を知っています)。錠は精巧で、鍵はスペンサー卿しか持っていません。開けるには〈機械修理〉-60%修正、1回の試行に20分かかります。中には精神空白装置ひとつと書類が入っています。
書類はスペンサー卿の私的なメモ類で、無数の人名や地名、書物からの引用、機械の設計図の断片などが雑多に記されています。1時間かけて全部読めば次のようなことが分かります。
★様々な言語で乱雑に書かれているが、おそらく同じ人物の筆跡と思われる。ドイツ語、フランス語、ラテン語、ひいてはアラビア文字やロシア文字まで使用されている。それどことか、見たことすらない曲線のような文字もある(キーパー用情報:これはイスの偉大なる種族の文字です)。
★〈オカルト〉ロールに成功すれば、オカルト関係のメモが多いことが分かる。歴史に関する単語も多いようだが、ドジアン、エイボン、ツァン、シャッガイなどの意味不明な言葉も多い。ジョン・ディーやタイタス・クロウなどの人名も読み取れる。〈歴史〉ロールに成功すればジョン・ディーが16世紀の学者・占星術師・錬金術師であることを思い出せるが、タイタス・クロウという名に覚えはない(キーパー用情報:タイタス:クロウが活躍するのは20年以上未来の話です)。
★機械の設計図は断片でしかない。〈機械修理〉ロールに成功すれば、何か音波や共鳴を発する機械らしいことは分かるが、複雑すぎてほとんど理解できない。紙の端には会社名が書かれていて、〈知識〉ロールに成功すればロンドンの精密機器やレンズのメーカーだと分かる(キーパー用情報:精神交換装置の設計図の一部ですが、人間の知識では理解不能です)。
■ 厨房と倉庫
厨房の横の倉庫は手前から第一倉庫と第二倉庫で、どちらも食料を保管・貯蔵しています。第一のほうは毎日使う食材が入れられていて、昼間は開いており、夜間だけ施錠されます。第二倉庫も食料庫ですが、保存の利く干し肉や酒類が収められており、用がある時以外は常時施錠されています。現在、第二倉庫はスペンサー卿が補充用に利用しています。
■ 屋根裏部屋
単なる物置です。埃が積もっており、最近人が入った様子はないように見えます(確証を得たいなら足跡を調べるために〈目星〉ロール)。
■ 厩舎と庭師小屋
時計館からだいぶ離れた場所に建てられています。庭師や馬丁は普段こちらで寝泊りしているのですが、吹雪になってきたことと、クリスマスであることから、シナリオ期間中は一時的に本館の使用人部屋で寝泊りします。よって馬丁が馬の世話をしていないときは無人で、シナリオで扱われることはありません。調査に行っても何もありません。
時計塔
修道院時代には鐘楼だったもので、鐘は大時計に差し替えられています。時計館本館と一体ではなく、30フィート(9m)ほどの外廊下で繋がれた別の建物です。塔の高さは90フィート(27.5m)です。
1階は時計工房になっており、塔頂上には大時計が設置されています。それ以外には階段しかない建物であり、中に入ると機械音が響き渡っています(〈聞き耳〉修正−50%)。普段は施錠されていますが、〈機械修理〉に成功すれば開錠できます。扉のSTRは10であり、押し開けるのは容易です。
塔の内部は大きな吹き抜けになっており、壁面内部には螺旋階段が巡らされ、頂上では巨大な振り子が往復しています。螺旋階段を登っていけば塔頂部の機械室に出ます(階段にも機械室にも柵がなく、うっかり落ちれば命がありません。ルール的には3m落下するごとに1D6ダメージですので、塔頂近くから落下すれば即死確実です)。時計は4面、30分ごとに鐘が鳴るようになっています。鐘が鳴っている最中の塔内の音はすさまじく、鐘の音以外は何も聞こえません。
展開によってはシナリオのラストでシュタウフェンベルクが時計塔に火をかけることがありえますが、時計塔が炎上しても本館まで延焼はしません。ですが炎上するのが時計塔だけでは盛り上がりに欠けると思うキーパーは、本館にも火が移ったということにしてもかまいません。
■ 塔頂部
機械室であり、大時計の内部機械が設置されています。頭上に巨大な鐘が吊られており、この場所で鐘の鳴る時刻を迎えてしまうと、あまりの騒音のため、【CON×5】ロールに失敗したラウンドは動けなくなります。このロールの結果が99〜00だったキャラクターは気絶します。
この内部機械に隠す、というよりも半ば一体化するようにして、精神吸収装置Aが設置されています。装置の大きさはかなりのものですが、時計のムーブメントを利用してカモフラージュされているため、1回10分かけて〈機械修理〉か〈製作/時計〉ロールに成功しなければその存在に気づきません。
■ 工房
時計塔1階の大部分は時計工房になっています。広いですが天井は低く、窓も少なく暗い部屋です。
壁面には一面の棚、中央付近には机や作業台や工作機器が並べられ、時計の部品や機械がそこかしこに置かれています。スペンサー卿の変貌後はあまり使われなくなっていますが、4人の時計工が常時作業するに十分な機材と広さが用意された工房です。予備部品も十二分にあり、ことムーブメントに関してはどんな時計でも修理可能です。定期的に掃除はされており、足跡や埃はそれほどありません。普段は施錠されています。
〈機械修理〉や〈製作/時計〉技能で調査を行った場合、特に異常なものはないことが分かります。〈電気修理〉+30%ロールに成功すれば、工房の隅に並べられた箱とガラス容器に気づきます。これら中身は希硫酸と金属板、つまりボルタ電池です。電池からはコードが何本も延び、どうやら電気実験をしていた形跡があります。ここで2度目の〈電気修理〉に成功すると、極小の音叉、抵抗器、それに水晶片などを確認することができますが、何の実験かまでは理解できません。(キーパー用情報:これはイシアンたちが行った水晶発振実験の名残です。つまり今で言うクォーツですが、人間によってクォーツ式の時計が実用化されるのは40年以上も先のことです)
工房の壁面の棚のひとつは隠し扉になっています。一番下の段の裏板を強く押すと掛け金が外れて棚が後ろにずれ、秘密工房に続く地下への階段が表れます。これを発見するには、該当の棚を調べると宣言してから10分かけて〈目星〉ロールに成功しなければなりません。工房には同種の棚が20あります(全部調べるなら3時間20分)。単に工房全体を調べると宣言された場合は、床と棚のどれを調べるのか聞いてください。床板は20のパーツに分かれていて1箇所調べるのに10分かかるものとします(全部調べるなら床だけで3時間20分)。
■ 秘密工房
工房の隠し階段は地下室につながっています。狭く、暗く、かびくさく、窓もない部屋です。照明はランプとろうそくです。古くからある隠し地下室であり、スペンサー卿が精神交換機を組み立てる秘密工房として利用していました。上の工房と同じように、棚や机、工作機器や部品が所狭しと並べられていますが、イスの偉大なる種族が作った機械が多く、人間の理解を超えています。また、新しい食器や便器が置いてあるので、つい最近まで人間がいたことが分かります。
精神交換機の作製は秘密工房のシュタウフェンベルクと工房のスペンサー卿の分業で行われていました。上の工房で部品を作り、秘密工房で組み立てるという分担です。卿が秘密工房に入るのは人目につかない時間帯に限られていました(卿が姿を消すわけにはいかないからです)。爆発が起きたのはここで、今なお破損した機械片や焦げた床がそのままになっています。
シュタウフェンベルクは一日中ここに隠れていますが、伝声管によってスペンサー卿と連絡を取り合っているので、外の状態は把握しています。日中の暇を持て余したシュタウフェンベルクは修理と製作に励んでおり、精神吸収装置の予備部品が常時ストックされています。、また精神空白装置と精神貯蔵装置もここにあります。
棚のひとつが動かせるようになっており、後ろに人が隠れられるスペースが設けられています。もしもの時にはシュタウフェンベルクはここに隠れます。巧妙な隠れ場所ですが、プレイヤーが部屋を捜索すると宣言して〈目星〉ロールに成功すれば、棚が動くことに気づきます。
秘密工房の存在を知っているのはスペンサー郷とシュタウフェンベルクだけです。ただし、この館に隠し部屋のようなものがないかとラルストンに尋ねれば、「この館がかつて修道院だった頃、修道士が作った隠し部屋があったらしい」という噂を教えてくれます。
第4章 精神吸収装置
この章ではイスの偉大なる種族による精神吸収装置および精神空白装置の解説を行います。
■ 精神吸収装置
人間の精神を吸収して保管する装置です。前段階としてまず人間を気絶させ、それから8時間かけて2点のPOWを吸収します。対人間用に調整されているので、精神構造が異なるイシアンには無効です。
一度起動したら、停止後に10時間かけて再使用の動力を蓄えなくてはなりません。そのため最短なら18時間サイクルで使用できますが、人間に気づかれないように記憶消去を行わなければならない関係上、シナリオ内では24時間サイクルで運用されます。
装置は3つあり、別々の場所に隠されています。これら3つの装置は基本的には同じものですが、大きさと効果範囲だけが違います。人間がこの装置の内部を見た場合、微細なレンズ、ゼンマイ、音叉などが使われていることは分かりますが、その原理や効果についてはまったく理解できません。〈機械修理〉に成功すれば、特殊な振動を発生させるものらしいと推測できます。実際にこの装置は振動を基本原理としており、特定の性質を与えた超音波・低周波を組み合わせ干渉させて効果を発しています。
装置の機能はいくつかあり、以下のように分類できます。
☆意識喪失機能3つの精神吸収装置の隠し場所は次のとおりです。
人間を気絶させる機能。
起動時に音叉部品が振動し、極めて高い金属音を発します。この音はどんどん高くなり、発生後20秒で可聴域を超えて超音波になって聞こえなくなります。これは頭を突き刺すような不快な音で、人間に頭痛や耳鳴りを引き起こし、発生1分後には[CON×7]ロールに成功しないと意識がなくなります。寝ていたならば目を覚ますこともなくそのまま意識をなくします。このCONロールは毎ラウンド行わねばならず、1ラウンドごとに[CON×6]、[CON×5]と減っていきます。[CON×1]になったらあとは毎ラウンド×1です。
この金属音はあまりに高すぎるので聞き取るには〈聞き耳〉−30%ロールが必要です。しかも起動は常に12時なので、時計館の無数の時計が発する時報と重なり、さらに−30%の修正が加わります。
☆精神吸収機能
POWを吸収する機能。
4時間に1点のペースで周囲の人間のPOWを奪い取ります。奪い取ったPOWは貯蔵機に転送されていくので精神吸収装置の内部には蓄積されません。
この機能は意識喪失機能と一体化しており、意識喪失機能の金属音と同時発生させない限り精神吸収を行うことはできません。
☆効果範囲拡大機能
中継機能。別の装置の発した効果を拡大する。
装置の効果は波ですので、この波を受け取って反響・増幅することによって効果範囲を拡大することができます。拡大できる機能は上記ふたつの機能です。
中継が起きると、装置単体の効果範囲に関わらず、より大きな装置の効果範囲が中継点から再発生します。具体的には、「装置Aから240フィート」の効果範囲内に装置BとCを置けば「さらに装置BとCそれぞれからも240フィート」にすることができます。
1)精神吸収装置A
時計塔頂部の大時計のメカニズムに隠されて設置されています。発見するには〈機械修理〉ロールあるいは〈芸術/時計〉ロールに成功しなければなりません。試行は1回10分、何度でも挑戦できます。
3つの中で最も大きく、おおむね長辺が2フィートの直方体ですが、内部機械はむき出しのままです。周囲と一体化するようにして巧妙に隠されており、時計塔の大時計を利用して動力のゼンマイを巻いています。
効果範囲は半径240フィート(73m)です。館の反対側つまり左翼の一部は効果範囲から外れています(そのためにBとCで中継して範囲を拡大しているわけです)。
2)精神吸収装置B
ギャラリーの大時計の中に隠された、手のひらサイズの箱です。動力を取るために時計に接続されています。人形が出てきて踊っている時間(12、3、6、9の3時間おき)に時計の中を覗いて〈機械修理〉〈芸術/時計〉〈目星〉のいずれかの+10%ロールに成功すれば発見できます(チャンスは1回につき1度だけ)。それ以外の時間に探すには裏板や横板を外して調べるしかありません。
効果範囲は半径120フィート(37m)です。金属音が聞こえる範囲は、装置Aが健在ならば半径9フィート(2.7m)、Aが停止しているならば45フィート(13.7m)です。
3)精神吸収装置C
アネットの体内、心臓のすぐ下に埋め込まれています。発見するにはアネットの胸に耳や手を当てるか、触れずに調べるならアネットの体内に耳を済ませると宣言して〈聞き耳〉−50%(周囲の音の修正は別)に成功しなければなりません。
小型すぎるため、単体での効果範囲は半径20フィート(6m)しかありません。実質的に中継用として作られたものですが、移動できるのと発見されにくいのが長所です。装置は直径1インチ半の薄い円盤状で、心臓の横に差し込まれるような形で納められてひげゼンマイとコードでつながれています。アネットの体内を調べることに関しては後述します。
金属音が聞こえる範囲は、装置ABが健在ならば半径2フィート(60cm)、AB共に停止しているならば10フィート(3m)です。
4)精神貯蔵装置
時計塔の秘密工房に置かれた機械で、高さ1フィートの円柱状です。
ABCの吸収装置が吸収したPOWはこの貯蔵装置に転送されます。直径4インチ(9.8cm)の水晶球が核で、この中にPOWを貯蔵します。水晶球が破壊されるとそれまでに溜めたPOWは本来の持ち主のもとに戻っていきます(ただし破壊された時に半径200フィート(61m)以内にいればの話です。いなかったならばPOWは行き先をなくして消滅します)。動力はなく、この装置自体は動きません。シュタウフェンベルクが目の届くところに置いています。
以上をまとめてみます。
・精神吸収装置の効果範囲は各装置から半径240フィート(装置Aが健在でBCが中継する場合)。この範囲内の人間は全員例外なく効果を受ける。
・装置は深夜12時に起動して意識喪失音を発生させはじめる。12時1分になると威力が効果域に達し、人間を気絶させる(この効果は8時間ずっと発生されている)。
・装置は同時に精神吸収を開始し、8時間かけて2点のPOWを吸収する。吸収されたPOWはそれぞれの装置を経由し、秘密工房の水晶球に貯蔵される。
・起動から8時間後、動力をすべて開放してしまった装置は停止する。以後10時間かけて動力を巻き取る。
PCが装置を見つけて破壊したり持ち去ったりした場合は、夜のうちに卿とシュタウフェンベルクで処理してしまいます。破壊された場合はシュタウフェンベルクがかかりきりで6時間あれば修理できます。持ち去られた場合は秘密工房に置かれているストックを使用します(このストックを使ったら、昼間のうちにシュタウフェンベルクが新しくひとつ作ります)。
キャラクターへの影響ですが、POWが2点減少すれば能力値SAN(=POW×5)も減少し、同時に現在正気度ポイントもSANの値まで減少します(マジックポイントは減りません)。
つまり、現在正気度ポイントがSANまで下がるこということは、(前日に減少していないならば)正気度ポイントはちょうど10点減ることになります。もし前日に3点の正気度を失っていたとしたら朝に減少するのは7点になります。もちろんこの正気度ポイント減少で発狂することはありません(8時間かけてじわじわ減っていくためです)。朝起きたPCは頭が痛い、頭が重い、だるい、などの症状を覚えますが、なんとか平気を装える程度のもので、1〜2時間もすれば気分はよくなります。
イシアン以外のNPC全員も効果を受けることに注意してください。POW7〜8なら28日(5度目のイヴ)朝にはもう目覚めることはできませんし、POW9〜10なら29日(6度目のイヴ)朝に目覚めなくなります。全てのPOWを失った人間は廃人になり、呼吸以外の行動をしなくなりますから、放っておけば3日もせずに衰弱死します。
★狂気ルールの変更点
POWと記憶が消えていく特殊なシナリオであるため、狂気ルールに変更を加えます。
すべての一時的狂気と不定の狂気は、記憶が消去された時点で回復するものとします。原因を忘れさせることによって狂気を無効化するわけです。
真の狂気に陥ったキャラクターは回復不能です。記憶喪失症になるのが妥当でしょう。
■ 精神空白装置
記憶消去装置です。外見はルールブック201ページのものと同じですが機能は大幅に制限されています。イシアンが1分かけて電極を対象の頭に接続したら、装置はその後5分かけて過去24時間分の記憶を消去します。消去された記憶は保存されず消え去ります。それ以外の作用(INTが減る等)はありません。人間がこの装置を見ても操作を理解することはできません。スペンサー卿の寝室の金庫の中と時計塔の秘密工房にひとつずつあります。
精神吸収装置によって人間全員が気絶したら、スペンサー卿は精神空白装置を持って館を回り、24人の人間に対しておよそ3時間かけて記憶を消去してまわります。消した記憶が蘇ることはありません。
ただし演出として、記憶喪失を疑わせる違和感をPCが感じた時に〈アイデア〉ロールを行い、成功したら激しい頭痛や既視感(デジャヴ)に襲われることがあります。キーパー判断で適時演出してください。
■ 装置の効果範囲
まず左のマップを参照してください。
AとBはそれぞれ装置の場所を示していて、グレーの円形がその「単体での」効果範囲です。装置Aは効果範囲240フィートですが地上80フィートに設置されているので、地上付近での効果範囲は226フィート程度です。
図のように、装置Aだけでは本館左翼(客用寝室棟)の約6割が範囲から外れています。AもBも健在ならば、A→Bの中継によってBからも240フィートの効果範囲が得られるので、館全体が余裕で効果範囲に収まります。
仮に装置Aが機能停止したとします。するとBだけの効果範囲しか得られなくなり、使用人棟はなんとか全部収まるものの、左翼の南西の2部屋が範囲外になってしまいます。そこで装置C、つまり左翼に寝室を移したアネットによって範囲を拡大することにより、客用寝室棟全体を範囲内に収められるようになります(この場合の範囲はBCそれぞれから120フィートです)。もちろんアネットが動いた場合は状況が変わりますので注意してください。
健在な装置と効果範囲の関係をまとめると以下のようになります。
☆ABC、AB、AC → 館全体
☆BC → 時計塔全て、第一ホール南側半分、右翼南東の部屋が範囲外になる
☆Aのみ → 左翼西側半分以上が範囲外になる
☆Bのみ → 時計塔全て、第一ホール南側半分、右翼南東、左翼南西の部屋が範囲外になる
☆Cのみ → アネットの周囲のみ
第二部 プロローグ
「萎める心の花」
萎める心の花を咲かせ 恵みの露置く主は来ませり第二部ではシナリオ導入部分からゲーム内の12月24日深夜までを解説します。24日深夜になると精神吸収装置が起動しさらにPCの記憶が消去され、第三部に入ります。いわば第二部はプロローグであり、本格的な探索や謎解きは第三部でということになります。
■ 概要説明とPC選択
1)まずキーパーは、舞台となる時代背景(ヴィクトリア時代イギリス)、シナリオの傾向(謎解きがメインである)、シナリオの難易度(非常に難しい)、さらにプレロールドキャラクターを用いることについて説明すべきです。
2)PC選択。3人分のキャラクターシートを公開し、プレイヤーにPCを選択させてください。3人のPCはどれも等分に重要であり、特に主役といえるPCはいません。
3)PCが選択されたら各プレイヤーに専用ハンドアウトを渡してください。ハンドアウトの内容を他プレイヤーに公開するかどうかは各プレイヤーの自由です。
4)質問を受けつけ、問題なければセッションを開始してください。
◆
第5章 導入
場面は1890年の12月23日、3人のPCが同じ汽車からマンスフィールド駅のホームに降り立つ場面から開始されます(ラルフは2つ前の駅から、あとの2人はロンドンから乗車)。マンスフィールドは閑静な田舎町で、他に汽車から降りた人はいません。時刻は午後4時ごろ、風はありませんが空からは雪が舞い降り、地面にはすでに2インチほども雪が積もっています。
PCたちはホームに降りるとすぐに、平服を着た体格のいい若者に声をかけられます。「失礼いたします、サー・ラルフ、エッジウッド様、メリウェザー様でいらっしゃいますか? はじめまして、僕はクラレンドン家の執事代理でロジャーと申します。マンスフィールドへようこそいらっしゃいました。馬車を用意してありますので、こちらへどうぞ」
その言葉どおり4頭立ての立派な馬車が待っており、ロジャーを含めてPCたち4人は馬車に乗り込みます。館につくまでの時間を利用してロジャーやPCの自己紹介などをさせるとよいでしょう。ロジャーは明るく話し好きで、尋ねられたことには知っている範囲で何でも答えます(客の前ですのでラルフに友達口調は使いません)。
林と沼以外は何もない丘陵地帯を30分ほど走ると雪の向こうに黒々とした尖塔が浮かび上がり、古い修道院そのものの時計館の前で馬車は止まります。と、ちょうどその時、時計塔の鐘の音が響き渡ります。馬車から降りるともう周囲は暗くなりはじめており、雪はいやましに強くなってきています。
PCを館に通したらマップを公開してください。「主人は後ほどお目にかかりますので、まずはお部屋でおくつろぎください」とロジャーに告げられ、PCは寝室に案内されます。空いた客室の中からプレイヤーに部屋を選択させてください(本来は主人側で決めておくべきことですが、ここはプレイヤーの決定権を尊重します)。部屋に落ち着き身支度を整えた頃に、メイドが「御前がお目にかかりたいと申しております」とPC全員を呼びに来ます。
対面はPC全員が一緒で、当主執務室で行われます。アネット、ロジャー、ジェイコブスがスペンサー卿に付き添っています。卿は昔と変わらず大柄でたくましく、鋭い目つきなどは昔以上ですが、どうしたことか車椅子に乗っていて顔色もよくありません。ですがPCたちを見ると笑みを浮かべて挨拶します。
「急な招待だったがみんなよく来てくれた。ひさしぶりに会えて嬉しいよ、エッジウッド。メリウェザーさんも気楽に過ごしてくれたまえ。ラルフ、ずいぶん立派になったものだ。アネットも君に会うのを心待ちにしていたよ」「お、お父様、お客様の前でよしてください!」とアネットが慌てるのをよそにスペンサー卿はひざ掛けを執事に預けて車椅子から立ち上がりPCひとりひとりと握手をし、それから再び座ります(もし立つことをPCが制止しても「座ったままで挨拶するような無作法はできんよ」と言い張ります)。この行為はスペンサー卿がミ=ゴではないことを暗示していますから忘れないでください。
キーパーはこの調子で会話を続け、挨拶や軽い思い出話をしてください。どうも体調が優れないのでエッジウッドとあまり長話はできない、メリウェザーさんは館内の時計を自由に見て回っていい、等を話し、最後にはPC全員に「自分の家だと思って気楽にして、あしたからのイヴとクリスマスを楽しく過ごしてくれたまえ」と伝えてください。これが終わるとPCは開放され、まもなく夕食ということになります。
まだ最初の対面ですので、スペンサー卿を疑わせるような言動を取るべきではありません。卿にエッジウッドやラルフの記憶はありませんが、演技で埋め合わせることができる程度には知識を集めています。都合の悪い質問は上手くはぐらかしてください。また卿の描写の際には「肌が日に焼けている」とは言ってもよいですが「肌が黒い」とは言わないでください。このシナリオは難易度が高いので余計なミスディレクションを与える必要と余裕はありません。
夕食は7時ごろからになるでしょう。スペンサー卿とアネットも出席しロジャーとジェイコブスは給仕にまわります。卿はあまり喋りませんからアネットを主人役にして色々と会話させてみてください。アネットの明るさを印象づける好機です。
夕食後からPCは自由に行動できるようになります。これ以後は決まった道筋がありませんから、キーパーは柔軟に対応してください。
特に何かしたいと言い出すPCがいないなら、アネットの提案で全員が娯楽室に行くことになります。ゲームをしない者は隣の喫煙室でゆっくりするほうがいいでしょう。もう夜遅いのでメリウェザーは時計コレクションを見たくても明日にしたほうがいいでしょう(とキーパーが言ってかまいません)。主人と客が全員集まる機会は夕食とその後だけですから、キーパーはこの機を逃さずNPCを印象づけてください。PC同士の会話が盛り上がるとなおよしです。9時になるとスペンサー卿は、今日は疲れたのでそろそろ休むと言います。エッジウッドには「積もる話は明日からにしよう。済まないな」と告げ、執事に車椅子を押させて部屋に下がります。
ここからは特にイベントはありませんからPCには自由にさせてください。できればキーパーは23時には全員が寝るように誘導してください。この時代は婚前交渉に寛大でなく、アネットとラルフの肉体関係もまだありません。第三部以降ならかまいませんが、23〜24日はアネットとラルフが一緒に寝る展開は避けてください(まだこの時点では胸の傷跡や精神吸収装置を発見されるわけにはいかないからです)。
この夜イシアンには重要な仕事がまだ残っています。23日深夜12時(もしPCがまだ起きていたら、寝るまで延期してください)、館内の人間が寝静まったことを確認したスペンサー卿から合図を受け、時計塔頂部に登ったシュタウフェンベルクが精神吸収装置を手動で起動します。すでに装置は完成していますが、今回だけは精神を納める水晶を入れずに起動するのです。つまり精神吸収を行わず、ただ人間の意識を失わせる機能だけを動かすわけです。この結果、精神吸収の前段階である意識喪失だけが起き、館内の人間は全員意識を失います(と言っても眠ったまま目を覚まさないだけですが)。
この23日深夜の時点を「ゼロ時間」とします。ゼロ時間が以後の繰り返しの原点となりますので、キーパーはゼロ時間時点でのPCの部屋の様子と館の状態をよく覚えておくようにしてください。イヴを何度も繰り返さなければならない都合上、イシアンは毎夜ごとに館内のすべてをゼロ時間へと復元させなければならないからです。
起動を確認したスペンサー卿は寝室を出て、館内の状況を記憶するためにくまなく歩き回ります。特にPCの部屋やPCがよく利用しそうな場所は怠らず、PCの手荷物や服も逃さずチェックします。卿はひととおり終わったらシュタウフェンベルクに連絡して寝室へ戻ります。シュタウフェンベルクは深夜12時に装置が自動起動するようにセットして秘密工房へと戻ります。
第6章 12月24日
最初の(そして本来の)24日は、PC的にはまったく何も起こりませんし、キーパーも深夜までイベントはありません。
キーパーはこの一日かけて典型的なイギリス風クリスマスを演出しつつ館やNPCをプレイヤーに覚えさせ、あるいはPC同士の交流を深めるように努力してください。一見何も起きない日のようではありますが、この日が以後の展開の基本パターンになりますから、キーパーは「PCが何時にどこで何をやっていたか」の記録を取っておくことをお勧めします。
イギリス風のクリスマスは家族で過ごす日であり、印象的には日本のクリスマスとそんなに変わらない演出でかまいません。プレゼントやカードを贈るなら25日ですが、このシナリオでは無視していいでしょう。ご馳走として鳥(七面鳥、ガチョウ、鴨など)を食べるのが一般的で、忘れてはならないのはクリスマス・プディングやミンスパイです。プディングに銀貨や指輪を入れて焼き、食べる時に見つけた人が幸福になるという習慣がありますが、特に描写しなくてもかまいません。ここで暖かく平和なクリスマス描写を重ねておけばおくほど第三部に入ってから不気味さが際立ちますので、余力のあるキーパーは凝ってみてください。
この日は食事に時間をかけ、空いた時間は娯楽室やサロンで楽しく過ごすように誘導してください。もちろんPCが何かしたいというなら十分に対応してください。スペンサー卿も多少は会話につきあってくれますが、体調不良を理由に執務室か寝室にいることが多いです。することがなくなったらさっさと時間を進めてかまいません。
23日同様、キーパーは23時には全員が寝るように誘導するといいでしょう。
■ 精神吸収と記憶消去:1回目
深夜12時、第1回目の精神吸収が行われます。PCが寝ていようと起きていようとかまいませんし、装置は自動的に起動しますからイシアンがどうしていようと関係ありません。PCが何かしたのでない限り、イシアン以外のNPCは全員すでに就寝しています。基本的には(=PCが邪魔をしなければ)以下の手順が毎夜繰り返されることになります。
12時になると館中の時計がいっせいに時報を打ち鳴らし、鐘や笛の音で館が埋めつくされます。この時に起きていたPCには〈聞き耳〉−60%ロールを行わせてください(これは騒音で−30%、音自体の性質で-30%の合計です。メリウェザーなら騒音分のペナルティをゼロにできます)。成功したら、頭を突き刺すような極めて甲高い「ピィィィィィン」というような金属音を聞き取れます。方向は分からず、周囲全体から響いてくるような気がします。もし〈聞き耳〉ロールが05以下だったならば頭の上のほうから聞こえてくるように思います。
まだ起きていたら、PCは頭痛と耳鳴りがしてくることに気づきます(金属音はすぐに聞こえなくなります)。時報の響きが小さくなってくるに従い頭痛は次第にひどくなっていき、最初に痛みを感じてから1分後には我慢できないほどになります。起きている人間は12時1分になったら[CON×7]ロールを開始してください。寝ていたなら頭痛に気づくこともなくそのまま昏睡します。
以後8時間かけてPCのPOWは2点吸収されます。この間は決して目を覚ますことができません。人間が全員気絶した頃合を見計らってスペンサー卿は金庫から精神空白装置を取り出して使用人室へ向かい、まずは使用人全員の記憶を消去します。次にアネットとPCの寝室へ向かい記憶を消去します。PC3人を含めた住人数は24人ですから24×6で144分、移動時間を含めて全員分の記憶消去には約3時間かかります。
次にしなければならないのは、すべての状態をゼロ時間へと復元することです。どんなものでも見逃すわけにはいきません。気をつけなければならないのは消耗品、つまり食料や燃料(油、薪、石炭、ろうそく)です。厨房から見て奥のほうの倉庫(第二倉庫)はあまり使われていませんがこちらにも食材が置かれているため、卿はここから食材を持ち出して厨房と第一倉庫に補充しますが、イヴに食べてしまったプディングなどはどうしようもありません。燃料は燃料庫から補充します。館内の燃えるゴミは基本的に部屋の暖炉で燃やされますが、燃えないゴミは集められているので第二倉庫に押し込んで隠します。また時計も忘れてはなりません。月齢表示(ムーンフェイズ)やカレンダー機能のある時計がいくつかありますので修正します。これらの復元に3時間かかります。
残りの2時間はPCの部屋のチェックやシュタウフェンベルクとの打ち合わせに使い、8時前には寝室へ戻ります。この間シュタウフェンベルクは自分の食料を用意したり、スペンサー卿を手伝いながら打ち合わせを行ったりしています。もし壊されている機械があったら彼が修理を行います。
■ 12月25日朝
日が昇り朝が来ます。PCとNPCは8〜9時ごろに目を覚ましますが、どうも頭が重く気分が優れません。PCはともかく使用人がこんな時間まで寝過ごすというのはありえない事で、使用人たちは飛び起きて大慌てで朝の支度を始めます。おそらくPCはモーニング・ティーを運んできたメイドによって起こされるでしょう。「おはようございます○○様、遅くなりまして申し訳ありません、朝のお茶をお持ちしました。今日はいいクリスマスイヴになるとよろしいですね!」
ここでキーパーはPCに起きたこと、つまりPOWが2点(&正気度ポイント10点)減少していることと、昨日1日分の記憶が完全に消えていることを伝えてください。これ以後シナリオは第三部に入ります。
第三部 本編
「悪魔の人牢」
悪魔の人牢を打ち砕きて 捕虜をはなつと主は来ませりイスの偉大なる種族との対決部分が第三部です。制限時間内にイシアンの陰謀を打破できればシナリオはエピローグに進みますが、POWが尽きてしまったならばバッドエンドです。
第二部の展開は直線的でしたが、第三部に入るとシナリオはいわゆる箱庭型展開になるので、ストーリーラインや固定イベントは用意されていません。PCは館の中を自由に動き回り、好きなように調査をしたりNPCと交渉を持ったりすることができます。ゲーム進行に最低限必要な枠組みはすでに第二部でほとんど語られています。第三部で行われる解説の大部分は、プレイヤーが取りうる様々な行動に対してキーパーがどのように対応したらよいのかを示すガイドラインです。
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第7章 ゲームの進行
基本的なゲーム進行は以下のようになります。
23日 PCが時計館到着
↓ (ゼロ時間)
24日 クリスマスイヴ
↓ (精神吸収&記憶消去:1回目 POW12→10)
25日 2度目のクリスマスイヴ
↓ (精神吸収&記憶消去:2回目 POW10→8)
26日 3度目のクリスマスイヴ
↓ (精神吸収&記憶消去:3回目 POW8→6)
27日 4度目のクリスマスイヴ
↓ (精神吸収&記憶消去:4回目 POW6→4)
28日 5度目のクリスマスイヴ
↓ (精神吸収&記憶消去:5回目 POW4→2)
29日 6度目のクリスマスイヴ
↓ (精神吸収&記憶消去:6回目 POW2→0)
バッドエンド
第三部は上の表の「25日 2度目のクリスマスイヴ」の朝から始まります。PCのPOWは11〜12に設定されていますから、最初の1日(=本当の24日)を除いた実質的な本編はゲーム内で丸5日間ということになります(6回目の精神吸収→POWゼロでバッドエンド)。キーパーは今が何日なのか忘れないようにしてください。
■ 進行の目安
プレイヤーはシナリオ開始早々に(それどころかハンドアウトを読んだだけで)スペンサー卿がイスの偉大なる種族であると気づくでしょうが、まったく問題ありません。キーパーも気にしないでください。
最初のうちはプレイヤーも戸惑っているはずですし、何よりPCの記憶がないのですから下手に動けないでしょう。1日目は状況確認に浪費されると思っていいでしょうから、キーパーは思う存分「日常から非日常へ」移動する不気味さを見せつけてやって下さい。最初プレイヤーはこのシナリオが時間ループものであると誤解する可能性が高いですが、それこそがこちらの思う壺です。ループではなく記憶喪失なのだと気づくのが遅くなればなるほどシナリオクリアは困難になります。時間ループと記憶消失の違いは、世界(環境)に痕跡が残るということです。それに気づけば次の日の自分に向けて何らかのメッセージを残すことに思い至るでしょう。
2〜3日目あたりがクリアの成否を決めます。このあたりで打開策を思いつけないと探索の時間が足りなくなるからです。しかし策を思いついてもイシアンの警戒レベルを上げてしまってはクリアは困難になるでしょう。プレイヤーによっては3〜4日目でクリアしてしまうはずです。
4日目には精神吸収装置を2つは見つけていないとペース的にきついでしょう。まだ記憶消去対策を打てていないようでしたらクリアは絶望的です。
5日目が最終日です。ここまで来て何も思いつけなかったプレイヤーは絶望して暴れだすかもしれませんので気をつけてください。逆にこの日一日で勝負を決しようと計画しているプレイヤーもいるでしょうから、キーパーは気を抜かないようにしてください。
想定される流れとしては以下のようになります。
記憶消去をなんとか解決したPCは、事態に気づいてその原因と犯人を捜すために行動を開始するでしょう。すぐスペンサー卿が怪しいと思うでしょうが、物証は得られないはずです(取り押さえて服を脱がせれば一目瞭然ですが、そもそも卿の体に機械が埋まっていることなどプレイヤーに分かるはずもありません)。キーパーはスペンサー卿よりも精神吸収装置にプレイヤーの注意を向けてください。深夜12時の怪しい金属音を強調し、急いで原因の機械を探し出して止めなくてはならない、という流れに進めるべきです。もしスペンサー卿排除の方向に進んでしまったら精神空白装置の使い手をシュタウフェンベルクに引き継ぐだけのことです。
精神吸収装置の隠し場所を3つ見つけられたら実質的にシナリオクリアです。こう言うと簡単なようですが、記憶消去とイシアンの妨害をかいくぐってここまで到達するのは極めて困難だったはずです。ですから、PCが最後の精神吸収装置を発見なり破壊なりしようとする場面でスペンサー卿と対決させてしまうのがいいでしょう。プレイヤーが推測できていない情報があるならスペンサー卿の口を借りて語らせてください(わざとらしくない程度に)。肉体的にはスペンサー卿は無力ですし、PCが卿を殺せないならば電撃銃で自滅するようにすればいいでしょう。あとはシュタウフェンベルクが時計塔に火をかけて証拠隠滅を果たせばシナリオは終了です。
PCが卿やシュタウフェンベルクを助けてやりたくなっても彼らの寿命は尽きかけているのですから無意味です。卿も最後まで抵抗しますし、シュタウフェンベルクとてイスの偉大なる種族のテクノロジーを人間に渡すことはしません(時計塔を炎上させたとしても本館の精神吸収装置やアネットの心臓は残ってしまいますが仕方ありません。精神交換機を渡さないのが最優先です)。
秘密工房とシュタウフェンベルクはシナリオの裏設定のようなもので、これらを探さなくてもシナリオはクリアできます。むしろ探されることは想定されていませんしキーパーも極力隠蔽してください。秘密工房を見つけられて一番困るのはスペンサー卿ですので、もしPCが秘密工房に肉薄してしまったら卿が妨害に入ります。理由をつけて工房から追い出すのがよいでしょう(伝声管で状況を把握していることを忘れないでください)。秘密工房が発見されそうになったらシュタウフェンベルクは隠れ場所に入ってやりすごします。それでも見つかってしまったら拳銃を盾にPCを脅して逃げ出しますし、追い詰められたら(できれば時計塔に火をかけて)自殺というのもありでしょう。
第8章 探索と警戒スペンサー卿は毎夜ごとに館内をゼロ時間に復元しますが、それでも復元しようのない痕跡が数多く残ってしまいます。またそうでなくても精神吸収装置自体が大きな物証として存在します。PCが自ら残すメッセージ・手がかりとはまた別に、これらもまたPCに抱かせる違和感の証になりえます。
■ 厨房
記憶消去後に最も人目につく異変が表れるのが厨房です。プディングを始め、イヴ用に用意した作り置きの料理や飲み物がなくなっているために料理人(女性です)が大弱りです。侵入者がいる様子はないので館内の誰かが隠したか食べたのだろうということになり、使用人たちの間でちょっとした騒ぎになっています。この騒ぎはロジャーやジェイコブスもすぐ聞きつけますが、誰にも犯人の心当たりはなく、とりあえず客(PC)や主人にはまだ伏せておいて後で調べようということにまとまります。
そのためPCが使用人に何か変わったことやなくなったものはないかと聞いても素直に教えてはくれません。この話を聞きだしたいなら〈言いくるめ〉〈説得〉を使うしかありません。食料がなくなったと決めつけてカマをかけるなどすればロールにボーナスを与えてよいでしょう。
■ 第二倉庫
決定的な証拠が残されているのが第二倉庫です。第一倉庫と厨房から減った食材は第二倉庫から補充されているので、第二倉庫の食材は毎日減り続けます(最初の貯蔵量は約1週間分です)。また暖炉で燃やせなかったゴミ類もここに隠されています。扉を開けてメイドか料理人に中を確認してもらえば食料の貯蔵量が減っていることを教えてくれるでしょう。
これを隠蔽するためスペンサー卿は第二倉庫の錠を改造しています。第二倉庫の鍵は料理人や執事が持っていますが、その鍵では開けられないように錠に仕掛けをしたのです。現在この錠を開けられるのはスペンサー卿が持ち歩いている鍵だけです。もし〈機械修理〉で開けようと試みるならば1回の試行には15分、1回目の〈機械修理〉ロール成功で、内部のピンが折れているので本来の鍵では開かないことが判明します。2回目に−60%の〈機械修理〉に成功すれば錠は開きます。樫の扉と鉄錠は古く堅牢なもので、破るならSTRは20です(2人まで協力可能)。
■ 金属音の出所を調べる
精神吸収装置の場所を特定するための手がかりは、装置が最初に発する金属音(意識喪失機能)です。ただしこの金属音はより大きな機械からの音が小さな機械の音を打ち消してしまうので、大きい装置が動いていると小さい装置を見つけるのは難しくなります。
装置Aの金属音は館のどこからでも聞こえます。
装置Bの金属音が聞こえる範囲は、装置Aが健在ならば半径9フィート(2.7m)です。Aが停止しているならば45フィート(13.7m)です。
装置Cの金属音が聞こえる範囲は、装置ABが健在ならば半径2フィート(60cm)です。AB共に停止しているならば10フィート(3m)です。
ただし金属音は別の装置に中継されて共鳴・反射されているので、〈聞き耳〉ロールに成功しても音源の方向は90°方向の円錐状にしか絞り込めません(要するに「だいたいこっち」しか分からないということです)。
深夜12時に最初の金属音が聞こえてきた時点でプレイヤーが「音の聞こえてくる方向はどっちだ」と聞いてきたら、無条件で音の方向を「頭上」と特定できます。プレイヤーが「それは時計塔の頂点の方向か」と明確に質問して来た場合には答えは「YES」です。また〈聞き耳〉ロールが05以下だった場合には自動的に「時計塔の頂点の方向」まで特定できます。
〈聞き耳〉ロールの成功率を上げるために努力することもできます。すでに述べたとおり修正は音の高さ-30%と時報のうるささ-30%の合計で−60%ですが、時報のほうは場所によって軽減できます。たとえば時計の少ない廊下、トイレ、外ならば−10%で済みます。あるいは特に音源に近い位置にいたならばボーナスを与えてもかまいません。
■ アネット
アネットの胸に直接触ったり耳を当ててみれば、明らかに人間の鼓動ではない機械振動が感じられます(正気度ポイント喪失0/1)。触らずに音だけで感知するには、「アネットの体に耳をすませる」と宣言した上でアネットのすぐそばまで行って〈聞き耳〉−50%(+雑音修正)ロールに成功しなければなりません。ただしこれで聞こえる音は精神吸収装置の動力巻上げ音ですから、聞こえる時間は朝8時から夕方6時までの10時間だけです。
深夜12時にアネットの周囲2フィート(60cm。すぐ隣です)以内にいたPCは、〈聞き耳〉−30%(+時報の雑音修正)に成功したら、アネットのほうから高い金属音が聞こえてくることに気づきます。抱き合っていたり胴体に触れていたりするならば修正はいっさい必要ありません。
胸の中央には長さ8インチ(20cm)にも及ぶ傷跡が縦に走っていて、糸でゆるく縫合されています。この傷を見て〈目星〉−30%か〈応急手当〉か〈医学〉に成功すると、この傷口は接着されておらず、縫合糸をほどけばすぐ体内が見えることに気づきます。いつでも人工心臓のメンテナンスができるようにと心臓前面にあたる肋骨と胸骨は取り除かれていますから、縫合糸を抜いてしまえば人工心臓と精神吸収装置がむき出しになります(正気度ポイント喪失0/1D3)。
体内の装置を一目見れば、これが現在の人間を遥かに超える技術だと分かります。〈機械修理〉ロールに成功すれば心臓のメカニズムとは異なる別の装置(精神吸収装置C)が存在することに気づき、これを取り外してもおそらく心臓機能に影響はないと推測できます。精神吸収装置を取り外そうとするならばアネットを寝かせる場所を確保した上で、1回10分かけた〈機械修理〉−30%ロールに2回連続成功しなければなりません(失敗したら最初からやりなおし)。ただしイシアンが作業すれば成功率99%、1ロール1ラウンドで終わります。〈機械修理〉ロールをせずに装置を胸から引きずり出したら、アネットは2D6ダメージを受けた上でさらに心臓に異常が発生して苦しみ始めます。
アネットは傷跡や人工心臓のことを記憶できないように命じられており、目の前に突きつけられてもまるで見えないかのように振舞います(「え…私の胸、どこかおかしい?」)。それでもなお追求すると精神の平衡が崩れて意識を失います。この際アネットの正気度も減少します(正気度ポイント喪失1/1D6)。
■ 警戒レベル
PCが事態を調査するのに対し、当然イシアンはそれに抵抗します。
イシアンは装置に自信を持ってはいますが、それでもPCの監視を怠ることはありません。イシアンがどの程度PCを疑っているかを示すために3段階の「監視レベル」を設定します。なおイシアンは見たものをそのまま完全に記憶する能力つまり「写真記憶」を持っており、監視レベル2以上になればその記憶力を遠慮なく発揮します。★監視レベル1:平常
初期の平常状態で、最低限の監視です。スペンサー卿は深夜PCの部屋に来たら部屋中の捜索を行いますが、その捜索はそれほど徹底されてはいません。目につきやすいところ全般、鞄や引き出しやクローゼットの中、簡単な身体検査を行い、ゼロ時間と異なっているものがあったら元に戻します。特に書かれたものに注意しメモや手紙はひととおり調べますが、写真記憶は使いません。
★監視レベル2:警戒
PCがイシアンの陰謀に気づいているそぶりを見せたら監視レベルは2になります。具体的には、目覚めた時に読むための書置きを残しているのを発見した、精神吸収装置を探したり破壊しようとしたりした、記憶消去を疑うような発言をした、等です。
監視は厳重になり、捜索は徹底されます。本は振ったりめくったりして中を確認し、服の縫い目や裏地、カーテンやベッドの裏、床板の隙間も見逃されません。身体検査も密になり、口の中や肌着の下も検査されます。メモや手紙の類すらイシアンが全文字記憶し、以前と違っているものがあったら寸分の違いもなく修正されます。PCの部屋だけでなく、PCが日常生活で利用するトイレ・浴室・食堂の席なども捜索対象です。
ある意味では、意図せずしてレベル2になってしまったらもうその時点でPCの負けだと言って差し支えありません。一度気づかれたら後がない以上、いかにしてイシアンに悟られずに事を成すかという点に努力を払うべきなのです。
★監視レベル3:敵対
PCが陰謀に完全に気づいたことを意思表示したり、精神吸収装置やスペンサー卿に対して決定的な暴力行為に出たりしたら、イシアンの監視は最大レベル3になります。レベル2と同等の捜索を行い、いざとなったら実力行使できるだけの用意も行います(具体的にはロジャーや拳銃の力を使うということです)。殺しさえしなければいいわけですから、手足を縛って軟禁するくらいはかまいません。また、PCは一人分余計にいますし、あるいはPCがいなくなったとしても使用人の肉体に転移すればいいわけですから、最悪の場合となればPCを殺害します。
レベル3はもはや監視というより臨戦態勢です。記憶のないはずのPCがちょっとでも妙な動きをすればイシアンは容赦しません。レベル3になる前に事態を処理できなかったプレイヤーの落ち度が責められるべきです。
一度上昇した警戒レベルは基本的にもう下がることはありませんが、プレイヤーが卿を完全に安心させられれば警戒を緩めることもあるかもしれません。
レベル1がレベル2になると難易度が急上昇しますが、そもそもレベル2にしてしまったのはプレイヤーの判断ミスなのですから、キーパーは遠慮する必要はありません。
第9章 3つの障害とその対策
このシナリオは、一般的な謎解きものシナリオと比べても非常にクリア困難です。というのも、シナリオ内でプレイヤーが打破すべき障害が3つ用意されており、このすべてを克服しない限りシナリオは失敗に終わるからです。その障害とは次のようなものです。
1)メタ視点から演技をし、PCに事態を把握させる
シナリオ中最大の障害です。「プレイヤー」はPCの記憶消失のことを知っていますが、「PC」自身は何も気づいていません。普通なら最後まで気づかないはずの事を、プレイヤーはなんとかしてPCに気づかせなければならないのです。ここでプレイヤー自身の演技力や発想力が問われることになります。
具体的に言うなら、PCに「何かおかしいぞ。もしやこのイヴは初めてではないのか? 記憶がなくなっているのか?」と思わせる「違和感」をプレイヤーの手で演出しなければならないのです。この点において、当シナリオは‘プレイヤー企画型シナリオ’であると言えます。違和感の種はシナリオでは用意されておらず、プレイヤー自身が考え出して残さなければなりません。
何かきっかけがなければPCは最初のクリスマスイヴをなぞるように動く、ということは忘れないでください。その‘何か’を考え出してPCに提示するのがプレイヤーの役目です。何の理由もなくPCがゼロ時間前と大きく異なる行動を取るようでしたらキーパー権限で却下することができます。言い換えれば、プレイヤーは自分の望む行動をPCに行わせるために、まずキーパーを納得させられるような言い訳を提示し演技しなければならないということです。
プレイヤーの仕事が「違和感のタネを考え出して演出する」ことだとするならば、キーパーの仕事は「プレイヤーのアイデアと演出を評価する」ことだと言えます。朝起きたPCの腕に切り傷がついていたとして、その傷は記憶喪失をPCに疑わせることができるほど重要なものなのか否か、それを判断するのはキーパーです。単に寝ている間にひっかけて切っただけと思える程度なのか、それともそれ以上の意味がありそう(とPCが感じるに足る)なのか、キーパーたるあなたが決めてください(プレイヤーはあれこれ言い訳して自説を通そうとするかもしれませんが、そんな発言は無視して結構です。判断材料はPCの行動結果だけです)。
ただし当シナリオに関しては、あくまでゲームであることを前提に、ある程度甘めに判定したほうがよいでしょう。現実世界だったら100の基準で挑むところを、セッション内は70くらいがちょうどいいと思われます。判断に悩んだ時はプレイヤー優先、くらいの基準でいるとよいでしょう。
2)イシアンに気づかれないように次の日にメッセージを残す
上記1の障害を乗り越えようとするプレイヤーは、世界に何らかのメッセージを残してPCに記憶喪失を気づかせようとするはずです。しかしそこにスペンサー卿が立ちふさがります。PCが残そうとする手がかりとやらは、見つけ次第スペンサー卿がすべて破棄してしまうのです。
この障害は純粋にプレイヤーとキーパーの知恵比べになります。プレイヤーが隠しスペンサー卿が探す、という単純な構図です(キーパーはあくまでもスペンサー卿として判断し捜索しなければならないのは言うまでもありません)。
しかしこの知恵比べのアドバンテージは圧倒的にスペンサー卿にあります。PCの記憶は毎日無くなるのに対して卿の記憶は維持されています。隠し場所が発見されてしまったら二度と同じ場所は使えませんし、それどころか卿を警戒させてしまい、その警戒はシナリオが終わるまでずっと維持されます。卿の知性、特に記憶力は人間以上ですし、気絶しているPCの横で好きなだけ捜索ができます。PCを裸にして身体検査することさえできます。これ以上の難敵はそうないでしょうが、そこを切り抜けるのがプレイヤーの能力というものです。以下で隠し場所の検討を行いますから参考にしてください。
3)真相を看破し、精神吸収装置を探し出す
この障害は謎解き・探索シナリオとしてごく一般的なもので、特に問題ないでしょう。上記2つの障害だけでも十分に困難ですので、シナリオの真相自体はミスディレクション少なめでシンプルなものになっています。
スペンサー卿がイスの偉大なる種族でシナリオの黒幕というのはすぐに分かるでしょうし、おそらくPCの肉体を狙っていることも推測できるはずです。3つの精神吸収装置のうちアネットの体内にあるものが最も分かりにくい隠し場所ですが、この点はラルフのプレイヤーに期待しましょう。どの装置も起動時に金属音を発生させるので発見はそれほど難しくはありません。
■ メッセージを隠す
毎日24時間分の記憶が消されていく、その事実自体に気づかなければそもそも調査すら始めることができません。ではどのようにそれを‘まだ見ぬ明日の、何も知らない自分’に伝えればよいでしょうか?
もし妨害がまったくないと仮定すれば、事情を書いた手紙を机の上に置いておくだけで済みます。目を覚ました明日の自分は手紙に気づき、皆の記憶が消されていてクリスマスイヴを繰り返させられているという事実を知るでしょう(手紙の内容を即座に信じるかどうかは別問題ですが)。ですがスペンサー卿の妨害が入らないわけがありません。卿は毎夜PCの部屋を訪れ、ゼロ時間と違っているものがあれば寸分違わず(それこそ1ミリのずれもなく)復元してしまいます。これを乗り切らない限りいかなるメッセージも残せません。
また言うまでもありませんが、単に〈隠す〉や〈アイデア〉などのロールに成功するだけでは、メッセージを隠したり暗号を書いたりすることはできません。これらはすべてプレイヤー自身でアイデアを考え出さねばならず、ロールは実行を補強するにすぎません。
1)隠し場所を工夫する
ベッドの裏、じゅうたんの下、服の裏地などのような分かりにくく見つかりにくい場所に手紙を隠せば、警戒レベル1の卿ならごまかしきれます。ただし問題なのは、記憶を失った自分がそれを発見できなければ何の意味もないということです。
たとえばベッドの裏に貼り付ければスペンサー卿もそうそう発見できないでしょうが、朝起きたPCが偶然ベッドの下を覗き込むこともまたありえないでしょう。もしプレイヤーが理由もなく「なんとなくベッドの下を見る」などと言ったら却下してください。「偶然ペンをベッドの下に転がしてしまったからベッドの下を見る」というのも無理があります。落ちたペンが‘偶然ベッドの下に’転がるかどうかはキーパーが決めることであり、意図的に転がしたのでない限りキーパーには却下する権利があります。ではPCが意図的にベッドの下を覗く理由とは? それを考えるのがプレイヤーの仕事です。
これを踏まえると「普通に探してもなかなか目につかないが、PCにだけは目につく」というような場所があればベストです。たとえばPCが日常的に行う過程に必要なものに隠すというのはどうでしょう。上着のポケットに入れておくくらいでは卿に発見されてしまうでしょうが、服の裏地に縫いこんでおけば日中に動いていて違和感を感じるかもしれません。朝の洗面器や髭剃りなどはメイドが運んでくるので期待できません。パイプの中に詰めておくというのはレベル1ならOKですが、レベル2以上は発見されるでしょう。
またPCの寝室は監視が最も厳しい場所ですので、館内の別の場所に隠せば見過ごされる可能性が高まります。バス、トイレ、食堂や娯楽室でいつも座る椅子、ビリヤードのキューやカードも利用できます。
キーパーは、隠し場所や隠すのに使った時間などによってメッセージの内容を判断してください。ごく小さな場所、あるいは急いで隠すならば単語ひとつふたつしか残せないでしょう。もちろん〈隠す〉ロールも重要です。
2)暗号化する
イシアンとて、PCが持っている日記や本や書類のすべてを完全に記憶するつもり(と時間)があるわけではありません(ただし警戒レベル2〜3ならそこまでやります)。そこで、暗号や符丁を使ったり、自分だけにしか分からない形で記録するという方法が考えられます。もし暗号を思いつければ卿に見つかる可能性はほとんどないでしょうが、ただしこの場合、暗号をプレイヤー自身が考えなければならないのが問題で、実際にうまくいくことはあまりないでしょう。
エッジウッドは時計と機械の専門家ですからそれを利用できます。道具一式は持ってきていますし、何か欲しい機械があれば工房からなんでも調達できます。プレイヤーが何か考え出したならば多少の時間的技術的無理には目をつぶってよいでしょう。たとえば蓄音機という手があります。館内にもエッジウッドの手荷物にも蓄音機はありませんが、自作できないわけではありません。エジソンがスズ箔を巻いた円筒に振動を記録させた蓄音機を特許登録したのは1877年、円盤型レコードの特許が登録されたのは1889年です。蓄音機は当時最先端の機械で、原理も材料も周知でした。あるいは時計の中にメッセージを隠すということもできます。修理すると言って時計を持ち出して中に仕込んでおけば、エッジウッド以外にはムーブメントを開ける者などいないでしょう。
メリウェザーは音楽家ですから楽譜を利用できるかもしれません。シュタウフェンベルクならともかく卿は楽譜が読めませんので、音符がありえない並び方をしていても分かりませんし、前日はなかった楽譜が1枚くらい増えていても気づきません。もし音符でメッセージを残す方法を思いつければ卿を出し抜けるでしょう。
詩や小説を書いて暗号を仕込むなら特殊な知識はいりません。行頭の文字をつなげると amnesia(記憶喪失)になる、一単語おきに読むと memory lost になる、などです。英語でも日本語でもかまいません。とはいえその詩をスペンサー卿が見逃してくれるかどうかは別問題で、さらに隠し場所も工夫しなければならないでしょう。この場合の利点は、もしこの詩が卿に発見されてしまっても破棄されずに放置してもらえる可能性があること、そして警戒レベルの上昇を抑えられることです。
3)刻む
毎夜スペンサー卿がメッセージを消してしまうというなら、消せないようにすればどうでしょう。柱や壁に直接刻んだり、あるいは肉体に傷で書くというのもこの範疇です。それ以外にも窓を割ったりカーテンを裂いたりインク壷を転がしたり、とにかくちょっとやそっとでは修復不能な痕跡をつけてしまえばいいのです。
この方法は確実性が高い反面、スペンサー卿に間違いなく気づかれるという大きすぎる欠点があります。警戒レベルが2あるいは3に上がることは覚悟してください。あるいは警戒されるのは覚悟で、この方法は最終日用に取っておくというのもありです。
もちろん卿もメッセージを黙って見逃すわけではありません。書かれた文字を全部あるいは一部削り取ったり、あるいは逆に文字を書き加えて読めなくします。読めなくはなっても痕跡は残ってしまい朝起きたPCや使用人が不審に思うのは避けられませんが、そこはごまかすしかありません。使用人に言い含めて、夜中や朝方に使用人が部屋に入ってうっかり壊してしまった、ということにするのが簡単です。使用人は主人に命令されれば逆らいようがありませんからどこまでも嘘をつきとおします。〈心理学〉ロールで嘘自体は見破れますが認めさせるのは困難でしょう(単に〈言いくるめ〉〈説得〉ロールだけでは足りず、脅す、騙す、などの策を講じるべきです。田舎の荘園屋敷の当主は絶対君主ですから、賄賂だけでは効果が薄いです)。
刻む方法を一手ひねり、メッセージ性は諦めて違和感の種として利用するほうが賢明かもしれません。スペンサー卿も気づかない程度に、あるいは気づいても見過ごしてしまう程度に傷跡を残すのです。単体では無意味な痕跡でも複数重なればPCに違和感を呼ぶに足るでしょう。あるいは逆の発想で、卿の目の前で堂々と傷跡をつけるというのもあります。その行為が何気なく自然であればかえって見過ごされてしまうものです(『盗まれた手紙』的発想)。この方法はたとえ発見されても警戒レベルの上昇を抑えられるという利点があります。
4)特例:日記
セッション中にプレイヤーが「自分のPCはいつも日記をつけていることにしたい」と宣言した場合、これは認めてください。さらに‘毎日日記をつけることは日常の一部であり、よって特に今までプレイヤーが描写をしてこなかったとしても、日記は毎日つけられていた’ものと認めてください。本来このような後付け行動宣言は却下されても仕方ありませんが、当シナリオでは特別にこれを許可します。プレロールドキャラクターであること、プレイヤーのアイデアを尊重したいこと、単に難易度的な問題、などがその理由です。
もちろん日記は真っ先にスペンサー卿の目に留まりますが、日記ごと破棄するわけにもいかないので、できるだけ痕跡を残さないようにしてページを切り取るしかありません。PCがページの切り跡に気づけばそれは立派に違和感の原因となります(気づくのが寝る直前になる可能性は大ですが)。日記があらかじめ存在していたことにより警戒レベルを上げずに済むのが利点です。
第四部 エピローグ
「主は来ませリ」
この世の闇路を照らしたもう 妙なる光の主は来ませり◆
第10章 エンディング
■ エピローグ
シナリオの終わり方はいくつか考えられますが、想定どおりに展開したとしたらPCが最後の精神吸収装置を見つけたところでスペンサー卿が現れて対決になるというのが最もありえます。もちろん対決とは言ってもこの時点でPCの勝利は確定しており、あとは種明かしや後始末が残っているだけです。以下は考えられるパターンの例です。
★PCが3つ目の精神吸収装置を破壊しようとしたところに車椅子のスペンサー卿が現れます。卿は手に武器らしきもの(電撃銃)を持ち、動かないようにとPCに警告します。場合によっては(たとえばPCがアネットの胸を切り開こうとしているような時)ロジャーに命じてPCを縛らせたりすることもあるでしょう。PCが実力行使に出れば卿も否応なく応戦して電撃銃が暴発し、体内の機械を撒き散らしながら倒れます(正気度喪失0/1D4に過ぎませんが、これでPCが壊滅しそうならば、同じタイミングでシュタウフェンベルクが水晶を割っていたことにしてください)。
PCがしばらくでも館に留まっているならば、手に水晶球を持ったシュタウフェンベルクが現れます。シュタウフェンベルクは敵対の意思がないことを示し、必要ならば事情を説明します。
「我々について語る気はない。ともかく帰還用の精神交換機が事故を起こし、我々は肉体に致命傷を負ってしまったということだ。そのため生き延びるために新しい肉体が必要になり、転移に邪魔な精神を追い出すためにこの計画を立てたのだが……結果はこの通りだ。やはり我々は間違っていたようだね。大人しく死を受け入れるべきだった。君たちにはすまないと思っている」
「今まで吸収した君たちの精神はこの球の中に納められている。これを割れば精神はもとの肉体に戻るだろう。さあ、受け取りたまえ」
「我々のテクノロジーを人間に渡すわけにはいかない。すでに時計塔には火をかけてきた。君たちさえよければ私も今から時計塔に向かうつもりだが、かまわないかな」(対決の場所が時計塔だったならば、シュタウフェンベルクはもうすでに工房に火をかけていたか、言葉と共に持っていたランプを壁に投げつけます)
★スペンサー卿がアネットを人質にしたりして抵抗した場合。局面が膠着して双方手が出せなくなったところでシュタウフェンベルクが卿の後ろに現れ、手にしたリボルバーを卿に突きつけます。
「いいかげんにしたまえ、それでも君は偉大なるイシアンなのか。諦める時がきたんだよ」
「ふざけるな、何のまねだ! 下等生物の肉体のひとつやふたつ何だというのか。第一、貴様の肉体も既に限界のはずだ。新たな肉体に精神転移しなければお互い死ぬだけだぞ!」
この隙にPCがアネットを奪い返せればよし、できないならばスペンサー卿の電撃銃に巻き込まれて卿もアネットもシュタウフェンベルクも死亡するというのもありえます(アネットは生き残ってもいいでしょう)。あるいは卿とシュタウフェンベルクが相打ちになったり、シュタウフェンベルクが卿を撃ち殺してもかまいません。いずれにせよすでに工房に火が放たれており、卿とシュタウフェンベルクは死亡します。
☆アネットについて
アネットの機械心臓のメンテナンスはイシアンにしかできません。たとえイシアンの教えを受けても、ヴィクトリア時代の人間の技術力ではとうていメンテナンスを引き継ぐことはできません。つまり早ければ半年、長くても2年もすればアネットの心臓は動かなくなります。もちろん心臓移植など夢のまた夢です。PCにできるのは残された時間を一緒に過ごすことだけでしょう。キーパーはイシアンの口を通してはっきりそれを告げるべきです。
「彼女は3年前に殺害され、今は我々の人工心臓で生き長らえているにすぎない。我々イシアンならともかく、君たちの技術では心臓を維持することはできまい。そうだな、もって2年というところだろうね。すまないがどうしようもない、本来なら3年前に死んでいるのだから」
シナリオの背景を語らせたい場合、スペンサー卿とシュタウフェンベルクの性格の違いは考慮してください。スペンサー卿は、これから殺しあう相手、それも下等生物に対して「冥土の土産に教えてやろう」などと慈悲深く考えることはありえません。ただし直に質問された場合、あるいは時間稼ぎのためならばありえます。シュタウフェンベルクはPCや使用人の命を奪うことを済まなく思っているので、謝罪の意を込めて背景を教えてくれる可能性は大です。いずれにせよあまりわざとらしくしない程度に配慮してください。
どのような終わり方になっても、重要なのは「陰謀を看破し精神吸収装置をすべて発見した時点でシナリオは事実上終了している=シナリオクリア(プレイヤーの勝利)」ということです。スペンサー卿は抵抗するかもしないかも知れず、アネットは生き残ることも殺されることもあるでしょう。ですがもはやこれらは単なる後始末で、ストーリー演出上の問題に過ぎません。後はキーパーとプレイヤーの創意のままに自由にエンディングを迎えてください。
極めて難易度が高く、クリアするだけでも十分困難なシナリオですので、得点や報酬(正気度の回復)の算定は行いません。必要ならばキーパーが設定してください。その場合、使用人に犠牲者が出たら報酬を差し引くようにすればよいでしょう。
■ バッドエンド
12月29日の深夜12時までにシナリオを解決できなければバッドエンドです。
6回目の精神吸収装置が起動し、PCは激しい頭痛に襲われて倒れ伏します。そのまま全員意識を失って暗転というエンドでもかまいませんが、できればキーパーはこの瞬間にスペンサー卿を登場させてください。
車椅子の音が聞こえ、這いつくばって苦しむPCを見下ろすようにしてスペンサー卿が現れます。何の感情も浮かべず、虫でも見るかのようにPCを観察しながら卿は言います。
「だいぶ手こずらせてくれたものだ……下等生物のわりには努力したと言っておこう。私が過去へ戻るまでの短い間だが、君の肉体は有効に使わせてもらうことにするよ。むしろ我々に精神転移されるのだから光栄に思ってくれたまえ」ここで卿は手を上げて、後ろに立つ何者かに合図します。
「やってくれ、シュタウフェンベルク。私の人工臓器はもう限界だ」
そう言いながら卿は立ち上がり、その拍子にひざ掛けが落ちます。すると見上げるPCの目には、上着の隙間から覗く金属片、ゼンマイ、パイプが見て取れます。
「ではな○○君、もう会うことはないだろう。君たちの精神は機械に吸収したまま保管してあるが、まあいつか開放されることを祈ってくれたまえ。それが何年後か、何百年後かは分からないがね」
その言葉を最後に、PCは自分の精神が体から引きずり出されていくのを感じます。視界がぼやけていき、スペンサー卿に見下ろされながらPCは意識を失います。
もしPCがラルフの場合、最後の力でアネットについて尋ねることを許可してもいいでしょう。卿は表情を変えず事務的に答えます。「アネット? ああ、あの肉体は本来なら3年前に死んでいる。私の埋め込んだ人工心臓は帰還前に回収させてもらうから、今度こそ本当に死んでしまうわけだが。だが精神はこれからずっと君と一緒にいられるんだ、安心したまえ」
そして全ての望みを絶たれてPCは全滅します。Bad End。
Tips & Tools
ここではトラブル対策やシナリオ運営に関する小ネタなどを集めましたので参考にしてみてください。
■ トラブルシュート:館から逃げ出す
PCがシナリオ解決を放棄して時計館から逃げ出そうとした場合のトラブルシュートです。
時計館の外は吹雪で、馬車も使えず、歩きでは町まで1時間以上かかります。もし沼に落ちれば死ぬしかありませんし、おそらく遭難するだろうと忠告はしてください。それでも館から逃げ出した場合には、イシアンが催眠暗示でPCを帰還させにかかります。
雪を掻き分けていくPCの視界が突然黒く染まり、五感すべてが消えます。しばらくすると視覚と聴覚だけが戻ってきますが、どうもPCの視点は暗い部屋の中にあって、なぜかとても低い場所から上を見上げているようです。と、視界に見知らぬ男の姿が入ってきます。顔にも体にも包帯を巻いた痩せた男らしいですが暗くてそれ以上は見えません。男はPC(の視点)を見下ろして言います。「やれやれ、そのままだと凍死してしまうぞ。どうせ死ぬのならばその肉体は有意義なことに使ったらどうかな。もっとも厳密に言えば君は死ぬわけではないのだが。…さあ戻ってきたまえ」
そこで光景は途切れ、PCは雪に埋もれかかった状態で意識を取り戻します。PCは凍傷と低体温による1D4点ダメージを受けています(応急手当は可能)。吹雪の向こうにぼんやりと黒い影がそびえたっており、近づくとそれは時計館であることが判明します。戻ってきてしまったのです。
これはシュタウフェンベルクがPCの精神の入った水晶を使って暗示をかけたことによるものです。逃げ出そうとしてもすでにPCの精神の一部は捕らわれてしまっており、限定的にですが水晶を通じて催眠暗示をかけられてしまうのです。
光景について質問された場合は正確に答えてください。シュタウフェンベルクのいる場所は秘密工房ですが明かりを消していたので狭い室内らしいことしか分かりません。窓はありませんでした。もし光景を見たPCがメリウェザーだった場合、〈知識〉ロールに成功すれば男の顔に見覚えがあります。ウルリッヒ・シュタウフェンベルクのこと(天才音楽家だったが6年前ほどに記憶喪失になって入院したらしい)を説明してください。
■ トラブルシュート:破壊行為
PCが自棄になって時計館を破壊しようとした場合のトラブルシュートです。
すっかり追い詰められてしかし打開策がまったく見出せない場合、プレイヤーは自暴自棄になって、どうせこのままじゃ廃人になるんだと考えて暴走する可能性があります。理由もなくスペンサー卿やアネットに襲いかかったり、館中の時計を片っ端から破壊して回ったり、最悪の場合は館に火を放ったりしかねません。
PCの行動に意味や正当性がないなら、キーパーはその宣言を却下できます。スペンサー卿が死んでもシュタウフェンベルクがいますからシナリオは続行されます。むやみに時計を破壊しようとしたらロジャーを使って力づくででも止めてください。それでも暴れるなら手足の一二本はかまいませんし、どうしてもというなら殺してもかまいません(イシアンがPCに傷をつけないのは肉体を奪いたいからであって、それができないならば生かしておく理由はありません)。
館に火を放たれたらシナリオは終了せざるをえないでしょう。精神貯蔵装置の水晶球が割れれば中の精神は戻っていくのですが、火災と共に水晶球はそのまま時計塔の瓦礫の下に埋もれてしまい、PCのPOWは失われたままでシナリオは終了します。いつか瓦礫が除去されて水晶が出てくる日が来るかもしれませんが……。
■ オリジナルの探索者を使う
時計館に招待される理由をつけられるならばオリジナルのPCを使用することもできますが、いくつかの制限が必要であり、お勧めはしません。
まず重要なのは、POWがPCのタイムリミットを決するため、POWが11あるいは12のキャラクターでなければこのシナリオに参加できないということです。魔術やマジックアイテムを持つ探索者もPCとして不適格です。また作成済みPCはこのシナリオに最適な技能を与えられているため、オリジナルのPCを用いると間違いなくクリア難易度が上昇するでしょう(特に、高い〈機械修理〉がなければクリアは不可能です)。
■ 別の時代と場所に移す
ヴィクトリア時代イギリス以外の舞台でこのシナリオを行うのには困難が伴います。1920年代にならば比較的簡単でしょうが、現代に移すのは非常に困難です。
シナリオが成立するためには時計館が陸の孤島であることが必須条件です。外界の日付が分かってしまうため、電話や交通手段はもちろん、テレビやラジオの電波があってもいけません。山奥や孤島に時計館が建っていることにすればこの点は解決できすが、そんな不便な場所にスペンサー卿が拠点を構えるというのはかえって不自然です。また仮に電波もネット回線も切断されたとしても、携帯電話やノートパソコンを持っていたら毎日それら全ての日付をずらさねばなりません。
以上から、よほどの理由がない限りはヴィクトリア時代でプレイされることをお勧めします。
■ 時計について
キーパーは特に時計について詳しくある必要はありませんが、多少の知識を持っておくとNPCのロールプレイに役立つでしょう。超絶懐中時計マリー・アントワネットに代表される18世紀の天才時計師「アブラアン・ルイ・ブレゲ」、レバーやボタンによって鐘が鳴って現在時刻を教えてくれる「ミニッツリピーター」、閏年の補正がいらない「永久カレンダー」、メカニズムを回転させて姿勢差(時計の向きで時刻がずれること)を解消する「トゥールビヨン」などの単語を使えるといいかもしれません(プレイヤー、特にエッジウッドのプレイヤーが同じ知識を持っていなければ無意味ですが)。
すべて別ウィンドウで開きます。
専用ハンドアウト(PC選択後に担当プレイヤーに配布)
時計館マップ(1600*1140pixels)
キャラクターイラスト・小(1226*1749pixels) 1(237k) 2(168k)
キャラクターイラスト・大(2452*3498pixels) 1(652k) 2(435k)
何年かぶりの“クトゥルフの呼び声”シナリオ公開になりましたが、皆様いかがお過ごしでしょうが。私のほうは十年一日のごとく相変わらずな内容のシナリオでお送りします。
TRPGにおいて「ロールプレイが上手い」という言葉は、一般的に演技力という意味合いで使われることがほとんどのようです。セリフが真に迫っているとか、かっこいいセリフを思いつくとか、かけあいが得意とか、それによって話を盛り上げるのが上手いとか……。
しかし演技がチットや経験点などで評価されるシステムならばまだしも、“クトゥルフ”では演技をする必要はありません。プレイヤーの役目はシナリオ解決のために努力することであり、100の熱弁をふるったとしても謎ひとつ解くことはできないのですから。
‘RPGの場合、「すぐれた演技をする」というのは、何も台詞に情感をこめて喋ることではなく、いかにその作品世界やストーリーにふさわしい行動を取るか、ということなのです。そのためには作品世界を理解していなくてはならず、そのうえで「知らないふり」をしなくてはなりません’
上記は『クトゥルフ・ハンドブック』からの引用ですが、まさにこのシナリオのためのような言葉ではありませんか?
知らないふりはもちろんのこと、PCとプレイヤーの区別をつけられないプレイヤーでは、このシナリオをクリアするどころか謎に挑むことすらできません。メタ推理、ロールプレイ、プレイヤー対キーパーの知恵比べ――プレイヤーはこれらをすべて乗り越えなければならないでしょう。これは誰にでも解けるといったシナリオではありませんが、だからこそ解けたときの喜びは大きいのだと私は信じます。
それでは、あなたとあなたのプレイヤーに幸運を。そして、それ以上の努力と知略を!
↓↓以下チラシの裏↓↓
・「ループもののように見せかけて実はそうではない」というひっかけもギミックのうち。
・高難度シナリオ愛好者用ニッチモデル。謎解き苦手な人にはオススメしません。
・想定クリア率は30%。
・タイトルはクリスマス聖歌から。
・参考文献――『ジョジョの奇妙な冒険』 腕に「BABY STAND」とか「エンポリオに会え」とかそのへんの。参考にならないですかそうですか。
・綾辻って人の小説を読んだことはありません。乱歩ならある。